君は『浪曲天狗道場』を知っているか
「浪曲案内 連続読み」 第5回
- 浪曲
東家 一太郎
2025/09/15
大衆の心を掴んだ伝説の番組『浪曲天狗道場』
唯二郎著『実録浪曲史』(東峰書房)に、浪曲とメディアの歴史について、こう端的に書かれています。
浪曲は明治の末期に大衆芸能を席巻してから、大正期のレコード時代、戦前のNHK独占時代と戦後の民放ラジオ時代にも、その王座を譲ることがなかった。映画でも(広沢)虎造、二代(天中軒)雲月(後の伊丹秀子)などの活躍によりその面目を保った。しかし戦後十年を経て農村は過疎が進み、人口は都会に集中し経済は高度成長へ、大衆芸能も大きく変貌したテレビ時代に、かたくなに浪曲を守ることは至難なことであった。
浪曲とラジオの相性は、とても良かったようです。1951年(昭和26年)12月25日、クリスマスに開局したラジオ東京では、翌26日から二代目広沢虎造の『清水次郎長伝』を放送。これが大ヒット。NHKのラジオドラマ『君の名は』が女湯を空にすれば、虎造は男湯を空にすると云われました。広告代理店がラジオ嫌いの広沢虎造を説き伏せて制作したようです。
この番組は、日産化学がスポンサー。のちに山口自転車提供の『虎造アワー』となります。ラジオ浪曲の絶頂は1956年(昭和31年)。ラジオ浪曲番組は、少ない時で日に3本、1日平均5本となり、週に35本もありました。新聞の投書欄に「夜間はどこ(のチャンネル)をひねっても浪曲ばかりだ」と出るくらいでした。
1958年(昭和33年)の半ばまでが、ラジオ浪曲の全盛期。それ以降はテレビの普及とともに時代が変わっていき、1964年(昭和39年)12月、浪曲界の大スター広沢虎造が亡くなります。虎造ショックとともに大衆芸能の王者と云われた浪曲は、また新しい時代へと進みます。

シティ・ポップの神様、山下達郎が「人生で初めて聴いたラジオの番組は何ですか?」との質問に「記憶に残ってる一番古いやつは、『浪曲天狗道場』というラジオ東京という、今のTBSですか。それですかね」と答えたそうです。山下達郎だけに「♪RIDE ON TIME 時よ走り出せ」と、時流に乗った番組が『浪曲天狗道場』でした。
皆さんをラジオの世界にお連れしましょう。
法螺貝と鼓の音が鳴り、「たのもーう」「どーれ」と、道場入門者と玄関番の声という設定で始まります。
「大正製薬提供、浪曲天狗道場」と案内の女性が番組タイトルをアナウンス。「一家に一つ、強力ダマリン(水虫薬)」と薬の宣伝(戦前から「薬宣興行」と云って、薬売りと合わせた浪曲興行もあったそうです)。ホールやスタジオにお客さんを入れての公開録音(たまに「浮世風呂」と称して銭湯を会場にしたり、年男・年女のゲストを迎える新春大会も放送されました)。
「道場の面々は…」と出演者を読み上げます。「審判・(初代)相模太郎(当初は二代目木村重松)、指南役・隅田梅若(当初は前田勝之助)、曲師・高野東海・佐野とよ、合図の太鼓・木暮金三郎、玄関番(司会者)・池谷(三郎、ラジオ東京のアナウンサー)、以上の皆さんでございます。それでは早速、開門といたしましょう」
ドン、ドン、ドンドンと太鼓が打ち下ろされ、池谷アナが羽織袴姿で登場、司会が始まります。
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