言霊のブーメラン

「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第3回

上方の前座に求められる能力

僕が前座で使ってもらっていた時期は、仕事と打ち上げは常にセットで

「後輩が打ち上げを断るなんてとんでもない!!」という時代だったから

前座は落語の腕よりも「打ち上げでの座持ち」が何より大切だった。

上方の落語家は、お酒が好きな人が多くて

繁昌亭の昼席が終わって夕方5時前から飲み始めて、ひどい時は終電まで7時間近く飲むこともよくあった。

15分しか仕事しないのに、7時間飲むねんで

もう打ち上げが仕事みたいなもんやん……。

だから「打ち上げの座持ち」がうまくて明るく、先輩の気を上げられる前座が特に重宝がられた。

まあ、でも気が利いて明るい前座は、高座も気が利いて明るいので、能力的には通づるものがあるかもしれない。

自分で言うのもなんだけど、桂三四郎は前座時代、「打ち上げの座持ち」はなかなか優れていた。

何度も何度も聞かされ続けた先輩、師匠方の武勇伝、昔話、芸論、これらを毎回初めて聞いたかのようなリアクション。

長い話をショートカットさせるため、話のオチまで最短で向かうための絶妙な合いの手、質問を駆使して話を簡略化させる聞き上手。

オチで誰よりも笑って、周りの笑いが引く頃に次のドリンクを頼む俊敏さ。

あえて、打ち上げ前半は料理にあまり手をつけず、残った料理をさらって空いた皿を片付ける気働き。

先輩のアドバイスを完全に聞き流す鈍感力。

酒を飲むたびに暴れるどうしようもない先輩からの誘いは「師匠から呼ばれてまして……」と切り抜ける状況判断能力。

これだけの能力がある僕は、前座時代はめちゃくちゃに諸先輩方に可愛がっていただいた。

上方の落語家に最も必要な能力は

「打ち上げの座持ち力」!! これに尽きる!!

変わりゆく打ち上げ

こないだ、このことをトークコーナーで言うと

東京の落語家に全否定された。

「こっちではその能力全くいりませんよ!! 基本的に前座は喋っちゃダメなんです!!」
「楽屋で真打に話しかけられても、肯定も否定もしないスタンスでいないといけないんです!!」

え? そうなの? 

たしかに、東京の寄席で前座さんに話しかけてもふわふわした答えしか返ってこなかった。

僕が前座さんに冗談でも言うとみんな、だいたい

「いやはや、ありゃこりゃ……」

みたいに語尾が消えていく喋り方しかしないんだけど

あれが肯定も否定もしない返答だったのか!!

「基本的に前座が発していい言葉は、『はい』と『ありがとうございます』と『申し訳ございません』だけなんです!!」

信じられない厳しさだ。。。

芸歴5年目くらいの時に打ち上げで

「米團治にマジで恋する5秒前ゲーム※」

というゲームを仕切って大騒ぎしてた僕とえらい違いだ。

ただ米團治師匠は、めっちゃ喜んでらっしゃったけどね!!!

東京の前座の方が圧倒的に厳しい。

※同席してた女性陣が5秒のカウントダウンの後、
 桂米團治師匠の心を掴むくどき文句を言うだけ
 のゲーム。

だけど今では、コロナ禍を機に打ち上げが極端に減り

後輩たちも打ち上げを断ることが普通になってきたらしい。

少しずつ上方落語界からも「打ち上げハラスメント」は消えていっているのかな?

すごく良い傾向だと思う。

だって酒を飲んで騒いだとて、落語がうまくなるわけでも人気が出るわけでもないもの。

いや~良かった。

これからも打ち上げハラスメントの被害者が減ってくれることを切に願う。