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三合目 ~京都漫遊記 〈壱〉

「酒は“釈”薬の長 ~伯知の日本酒漫遊記~」 第3回

維新志士と新選組が交錯した角屋

 揚屋というと、今で言うところの大宴会場であるが、角屋といえば、坂本龍馬や西郷隆盛ら維新志士側、そして新選組ら幕府側、共に利用していたから、幕末ものの講談(もちろん小説映画なども)には必ず出てくるお馴染みのお座敷。

 現在は、角屋保存会さんが運営している「角屋もてなしの文化美術館」として、当時のままの建物や座敷や調度品などを公開している。

 中に入ると、案内人さんが

 「いや~今日来てくださって良かったですよ、もし昨日、来てたら大変でしたよ! 閉まってたんです、夏季休館期でねえ……」

 ……実は前日に寄ったら閉館していて、今日また来た、というのは黙っておいた(夏季と冬季に数ヶ月ずつ休館期間があるから要注意である、私の二の舞にならぬように……)。

 さて、今回の目当ては、角屋の数あるお座敷のうちでも新選組に縁ある「松の間」の見学である。

 水戸の浪士で新選組の局長・芹澤鴨(せりざわかも)。酒による乱暴狼藉により、近藤勇らによって八木邸にて暗殺されることとなるが、その直前、最後の酒宴を楽しんだ場が角屋の松の間であったと伝えられている。

 初代伯知が新選組の生き残り、永倉新八(ながくらしんぱち)に取材し、口述した「新撰組十勇士伝」「幕末血史新撰組」にも、芹澤暗殺のくだりがある。復刻して私が口演する際にも、直前に酒を飲む場面を入れているため、その現場の景色を実際に目にしたいと思ったのである。

新選組の刀傷

段々酒を飲んで居りまする内に芹澤鴨がふと振返って
鴨「今日は角屋の主人は未だ是へ参って挨拶をいたさんか甚だ無禮なやつだ。
~(略)~芹澤鴨は左様な無禮をするやうな家には居られん」といひながら南蛮鉄の扇を持つが否や立ち上がって角屋徳右衛門方に於て第一と称する座敷の内にて手当り次第に物を打壊しはじめた。

松林伯知『新撰組十勇士伝』

島原から、名酒のまち伏見へ

 案内人さんが玄関から炊事場から様々説明してくれるツアーに参加。

 「ここが松の間です。庭に臥龍松(がりょうまつ)があるから松の間。この座敷の床の間の前のあたりに、芹澤鴨さんが座っていたと伝わっています。芹澤鴨という人は水戸の、本当は立派な方なんですよ? 剣術も達人でねえ……でもお酒飲むと乱暴でねえ……」

 水戸出身で京都に来た酒好き新選組ファンとしては、ホントスイマセン……といたたまれない気持ちになる説明があり少し笑った。

 「芹澤さんは、ここでお酒を飲まれた後、八木邸に帰り、暗殺されました。最後の酒宴の日に見た景色が、正面の庭ということになりますね」

角屋の臥龍松のある庭(一度、枯れたのを植え直している)

 最後の酒を楽しんだ景色、そう思いながら、芹澤が座っていたあたりから正面の庭を眺めてみると感慨深く、今後、同場面を高座で演じる際に思い出せば、所作で飲む架空の酒が、実にうまく感じるような気がするのであった。

松の間の右奥が芹澤鴨が座っていた位置

 さて、あの島原の、角屋のお座敷で、よりにもよって酒の話を聞いたら、やはりもう日本酒が飲みたくて仕方なくなるわけで……。

 そしてやってきたのは伏見。

 中書島の駅からして「幕末のまち伏見 名酒のまち伏見」の看板と、四斗樽ピラミッドが待ち構えているという、まさに私を大歓迎してくれてるような佇まいである。

中書島駅前の四斗樽ピラミッド

 あの寺田屋が残っているし、坂本龍馬推しで通りの名前も「龍馬通り」とあるから、維新志士推しオンリーか?と思いきや、各店舗には新選組隊士の写真なども貼ってあったりする(ご当地高幡不動がある土方歳三はともかく、店頭にこんなに大きく斎藤一の写真が貼ってあるのは初めて見た気がする)。

龍馬通りの案内板

お店の前の土方歳三の写真

斎藤一の写真