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2025年10月の最前線 【後編】 (聴講記:日本講談協会定席/講談入門③ ~入門書編2)

「講談最前線」 第9回

鯉風が掘り起こす講談の宝

 中入り後の神田鯉風は、マクラで今の講談界に疑問を呈したのが印象に残った。「赤穂義士伝」が800席あると話していたのには誇張があるにせよ、埋もれている話がまだまだあるというのは事実である。そうした話を何故復活させないのか。今、講釈師は100人近くいるのだから、一人ずつ復活させていけば、これまで聴けなかった「義士伝」に触れる機会が増えると話していたことには大いに賛同できた。

 特に鯉風は普段からオンリーワンとも言える演目を高座にかけているだけに、その説得力は尚更だ。

 ただし、落語家がマクラで話すことがあるように、埋もれてしまった話や演じられなくなった話にはそれなりの理由もある。それが講談であれば、先に上がった伯知のように、自分が調べてきたことや考えていることを差し挟むことで、現代に復活させることもできるはずである。

 勿論、それが大変な作業であることはわかるが、まだまだ埋もれている話はあるはずなので、鯉風のマクラにどれだけの演者が反応できるかに注目したい。

 鯉風のこの日の「不破数右衛門」は、「赤穂義士銘々伝」の一つで、短気で名高い数右衛門が瑤泉院(ようぜんいん、浅野長矩の正室)を追い掛けて向かった芝居小屋で、松の廊下を題材にした演目のセリフを聴いて腹を立てるといった物語で、義士の中にそういう人もいたんだなあ、よくぞ復活させてくれた!と思わせられた一席であった。

神田鯉風(X)

昌味が紡ぐ二宮金次郎の人間ドラマ

 この日のトリは、今は恵那で暮らす神田昌味。個人的に東京で接する機会が少なくなってしまったが、これまでに神田翠月を偲ぶ「翠玉講談会」を主催したり、自作の講談を演じたりと、精力的に活動をしてきたので、この日も昌味の出身である栃木県にゆかりのある二宮金次郎をどう聴かせるのかを楽しみにしていた。

 小さい頃に二宮金次郎こと二宮尊徳の伝記を読み、酒匂川(さかわがわ)の洪水対策や、金次郎像に見られるような、寸暇を惜しまず、学問に励んでいたということは知っていたが、宇都宮に関わりがあったとは知らなかった。己の勉強不足が恥ずかしい……。だが、そういうことを教えてくれるのもまた、講談の魅力だ。

 昌味は、そもそも金次郎は歩きながら本は読んでおらず、懐に本をしまって暗唱していたという事実に、では何故、あの金次郎像が生まれたかという理由。だからこそ金次郎像は変えねばならず、親戚が石屋を営んでいるので、そこに頼めばいいという笑いを差し挟みながら、宇都宮や真岡に招聘されてからの“知られざる?”エピソードを披露。

 そして調べてきた事実やエピソードから、話が持つテーマを浮かび上がらせることも忘れず、報徳思想を持って生きた金次郎のカリスマ性ばかりでなく、改めて真面目に生きて、真面目に商売をすること。そしてそのためには「人を大切にする心が、今、大切である」という、演者神田昌味の思う心を導き出してみせた。

 時間にして45分とたっぷり。寄席のトリでない時であると、15分や30分という持ち時間のこともある。面白い話であるので、そういった手数を出せない時に、短縮版としてどう読み聞かせるのかも楽しみで、また違う機会に、神田昌味の日に日に味が増す高座を聴いてみたい。

 そう言えば、最近はあまり披露することがないと話していた、冒頭での「日に日に味が出ると書いて昌味」ですというお馴染みのフレーズが聴けたのも良かった。

昌味(講談師 神田昌味)(X)