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2025年10月のつれづれ(築港浪曲まつり、万博と木馬亭の熱演、肥後琵琶の調べ)

月刊「浪曲つれづれ」 第6回

万博、そして浅草木馬亭定席の熱い舞台

 話が前後した。大阪に遠征したのは築港浪曲まつり以外にも理由があって、真山隼人・沢村さくらコンビが大阪万博会場で口演をするのを聴くためであった。

 すでに隼人は会場内で浪曲を披露しており、日本で初めて、いや世界でも初めてか、万博会場で唸った浪曲師となった。今回の口演は、なんとスウェーデン大使館の依頼によるものである。8月末に連続で文芸イベントを開催しており、8月30日はこどものためのフェスティバル、隼人・さくらはアストリッド・リンドグレーン原作の『長くつ下のピッピ』を浪曲として演じた。

「ピッピの序開き」とでもいうべき内容で、初登場の場面が綴られる。すでに真山隼人は、はるき悦巳の人気漫画『じゃりン子チエ』(双葉社)を浪曲化しており、元気な女の子は得意分野といってもいい。浪花っ子のチエとはまた違った明朗さのピッピで客を沸かせた。

 会場はなんと炎天下の屋外で、長蛇の列ができるアメリカ館の前である。その待機客にも聞いてもらえたので、総勢300人には届く口演になったのではないだろうか。

 ただ、この日も猛暑日で、口演には辛い一面もあった。一席終わって楽屋に戻った演者を訪ねると、沢村さくらの三味線糸がきりきりと音を立てている。外と冷房の効いた室内との寒暖差で、一気に収縮しているからである。これは曲師としては大変だろう。屋外イベントの難しさを感じた。

 この他の話題としては、10月の浅草木馬亭定席について書いておきたい。10月1日は、曲師・玉川祐子の誕生日である。この日はなんと103歳の生誕記念公演として行われた。浪曲だけではなく、すべての演芸界を見回しても間違いなく現役最高齢だろう。いつまでもお元気で、三味線を弾き続けていただきたい。

 なお11月の木馬亭定席では、唯一の木村派・木村勝千代の主任公演が決まった。11月2日がその日で、勝千代の師匠である木村松太郎の没後40周年を記念して行われる。

 10歳で松太郎に入門した勝千代は、父親に誘われて初めて訪れた木馬亭で、二葉百合子に会って短いながら浪曲の手ほどきを受けるなど、浪曲界の往時と現在をつなぐミッシングリンクのような存在でもある。定期的に主任興行を務めていただきたい。11月2日には、松太郎の演目から「芝浜の革財布」を読む予定である。お楽しみに。