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第三話 「内輪ノリ」

「令和らくご改造計画」

#3

 そんなことを考え、例によって楽屋のすみで頭を抱えていると、一人の前座さんが現れた。

 通亭まにあ(つうていまにあ)さん。きっちり揃えた前髪に黒縁メガネ、奥の真面目そうな眼差しが印象的な、女性の前座さんだ。

まにあ「兄さん、私に任せてください! 楽屋の先輩方、師匠方はわかっていないんですよ。自分たちが他人からどう見えるか、身をもって体験させてあげます!」

 そう言うや否や、彼女は楽屋の真ん中に立ち、とあるマイナーアニメについての膨大な知識を、大声で披露し始めた。

 登場人物の相関図、幻のOVA(オリジナルビデオ)版のエピソード、さらには誰も知らない声優陣の裏話まで。矢継ぎ早に捲し立てる。

 楽屋の芸人たちはポカンと口を開け、顔を見合わせるばかり。彼女が何を喋っているのか、理解しようとしてもまるでわからない。

 普段は内輪の世界で快適に暮らしている噺家たちが、今度は逆に「理解できない側」へと追い込まれてしまったのだ。

まにあ「ほら! どうしました? わからないでしょう? みなさんがやっているのは、つまりこういうことなんですよ!」

 ――的確すぎる一撃だった。

 芸人たちもはっとし、内輪にばかり向けた発信ではなく、外の人・世間に向けて、もっと丁寧に情報を伝えなければならないと改めて考えさせられる。

 僕もその様子を見て、感心していた。

 思えば、第一話や第二話の前座さんたちは過激なやり方で問題解決を試みてきたが、今回の通亭まにあさんは、やはり女性ということもあってか柔らかで、しかも核心を突いている。

 なるほど――こういう方法もあるのか。自分も見習わなければならない。

 ……と思った、その直後。

まにあ「わかったかこのやろぉぉぉぉおおおお!!!!」

 突然叫ぶと、彼女は楽屋の師匠たちに向かってスタンガンを振りかざした。ビリビリと音が響き、師匠たちは次々と泡を吹いて気絶していく。

僕「あっ、やめなさ――」

 止めに入った僕もまた、スタンガンの餌食となり、気を失った。