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秋白し

「まだ名人になりたい」 第5回

子供の頃からの夢

 九月七日は、謝楽祭でした。湯島天神で我々落語協会員により行われる、年に一度のお祭りです。なんと!今年は私も初めて出店しました。

 クレープ屋です。子供の頃からの夢です。

 小学生だった私が週に一度、日曜日、親に連れて行ってもらう“ららぽーと”のフードコートにあるクレープ屋。そこで頬張るチョコバナナクレープ。

 食べた途端に、美味すぎて気を失いました。

 子供心に、これさえあれば就職氷河期を乗り越えられる、クレープを食べれば思春期特有のぼんやりとした不安も晴れわたる、みんながクレープを食べれば世界から戦争がなくなる ―― そう思いました。

 ところが、私は就職活動をせずにぼんやりとニートになり、戦争はなくなりませんでした。ごめんねクレープ。

 私はまだあきらめない。クレープを食べれば、その日はとびきりな1日になるはずだ。

 クレープにも種類がある。人には好みがある。でもそんなこと知らない。チョコバナナクレープが本寸法だ。

 落語協会に出店の申請をした。事務員さんは、私に言った。

 「生のバナナは食中毒の危険があるからだめです」

 そんなバナナ! 食中毒を気にするなんてチョコざいな! その大事な書類のクリップ取っちゃうぞ! 頑張ってチョコ・バナナ・クレープでダジャレを考えました。

 話にならない! 謝楽祭実行委員長である三三師匠に直談判だ。らくごカフェでやっている『三三と若手』という会。これに出していただいた際に、聞いてみた。

 「三三師匠、食中毒を出してもいいですか?」
 「え、だめだよ」

 聞き方が良くなかったかな。強行突破しようかと思ったけど、私も四十六歳なので引き下がりました。缶詰のみかんとナッツの入ったクレープにしました。

 今のところ食中毒の苦情は来てないので、安全だったのか、お客さんが我慢したのか。ありがとうございました。

 これから毎年謝楽祭では、子供の頃、やりたかった仕事をやろうと思います。ちなみに来年のお店の予定は、徳川埋蔵金発掘です。