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〈書評〉 名探偵 円朝 明治の地獄とマイナイソース (愛川晶 著)

「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第6回

立体文字で楽しむ落語の世界

 以下は別の話題である。

 10月9日に東京都江東区のティアラこうとうで、先月昇進内定が発表された立川寸志の、真打名が発表されるという落語会が開催された。結果だけ書いておくと、改名・襲名はなしで、立川寸志のままで真打になるという。

 ご存じのとおり、「寸志」は師匠・立川談四楼の前座名である。大師匠の立川談志が、そのまた大師匠の八代目・桂文楽にその名を披露した時にいいエピソードがあるのだが、これは本になっているので各自検索願いたい。歴史ある名をそのまま残す判断をしたということだ。

 前座・二ツ目時代に師匠の前名を名乗っていた落語家に、泉水亭錦魚(現・立川小談志)、立川談奈(現・立川左平次)がいるが、いずれも真打昇進と共に改名・襲名している。師匠の前名をそのまま維持して真打になる、というのもなかなか珍しい例である。

 それはともかく、そのティアラこうとうで販売されていたZINEが珍しかったので紹介させていただきたい。『字遊落語絵図録』という一冊である。一口で言えば、落語の噺を紹介する一枚絵で、単にあらすじや設定などを書き込むだけではなく、立体文字になっている。

 たとえば「文七元結」は、上が吾妻橋が上に描かれている。その下で左官屋である長兵衛の鏝(こて)と、文七が失敗する原因を作った碁盤とが交差している。これで「文」だ。吾妻橋がなべぶたで、上の一画はそこから身を乗り出している文七なのである。下の「七」は、吉原の佐野槌、長兵衛が渡された五十両と、その身代になったお久、諸悪の根源である博打の壺が配されている。これで「文七」である。こんな図録が11点入った楽しい本である。

 作者はイラストレーターの勝倉大和で、ライターの和氣正幸が店主を務めるBOOKSHOP TRAVELLERで開催された個展「字遊落語絵図」で原画を集めたものである。同イベントを主催者キュレーター・執筆家の本屋しゃんが編集を担当している。イベント内で「江戸の『ちゃきちゃき』」を主題とする落語夜学会が開かれたが、その出演者が立川寸志だった。今回の落語会で本が販売されたのはその縁だろう。

 一般に流通する本ではないが、まずBOOKSHOP TRAVELLERで扱われ、以降は別ルートでの販売もあるようだ。気になる方は、落語夜学会事務局(info@honyashan.com)にお問い合わせを。

(以上、敬称略)

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  • 書名 : 名探偵 円朝 明治の地獄とマイナイソース
  • 著者 : 愛川晶
  • 出版社 : 中央公論新社
  • 書店発売日 : 2025年9月
  • ISBN : 9784120059483
  • 判型・ページ数 : 四六判・256ページ
  • 定価 : 2,530円(本体2,300円+税10%)

(毎月19日頃、掲載予定)