初夢で逢えたら

「マクラになるかも知れない話」 第六回

頭上の影、足元の影、そして森の奥へ

 何かが動いた。

 私は空を見たままだ。その空の中を何かが動いた。いや、動いている。目を凝らしてみる。

 そこには空と同じく、真っ青なトンビがいた。まったく空と同じ色だ。上空を旋回している、その輪を描くためのわずかな動きに陰影がついて辛うじてわかる。空と同じ、真っ青なトンビ。

 驚いた私は、しゃがみ込んで、草むらをのぞき込んだ。もしかすると……と思ったとおりだった。

 草むらには、草とまったく同じ緑の野ウサギがいた。私と目が合うとガサッと草の中に沈んで見えなくなった。他にも、きつねのような、いたちのような、そんな影がちらほらしている。いずれも草原と同じ緑色だ。

 至るところに、何かがいる。生き物がいるということが急に肌で感じられ、あたりがうるさく感じた。おそらく他にも空には空と同じ色の何種かの鳥がいて、草むらには草と同じ色の獣たちがいる。世界がガサガサいっている。生き物はうるさいんだな、と思った。

 「すごい」と声がこぼれた時に、紳士が歩き出した。

 慌てて私はそれにならうと、紳士に「すごい。たくさん生き物がいました。なぜあんな色をしているんですか」と聞いてみた。

 紳士は前を向いたまま、歩きながら「わかりかねます。しかし保護色とは、強大な敵から身を守るためのものだと言います」と言った。私は少し怖くなった。

 「森に入ります」

 急に紳士が立ち止まって言った。

 まったく気がつかなかった。いつの間にか目の前には巨大な森が広がっている。

 いや……巨大すぎる。木の一本一本の幹が校庭一周分ほどもある。真上を向いても、先のほうは見えない。東京タワーほどもあるだろうか。そんな巨大な木々が身を寄せ合っている。

 地面は、複雑に絡み合った太い根に覆われて見えない。さらに腰ほどの深さに水がたまっている。森の中は鬱蒼としているが、不思議と木漏れ日がぴかぴかとして明るい。

 入るって……どう歩くんだ……。

 思った途端に、紳士が歩き出した。紳士はその長い足で、器用に根から根へとスキップをするように渡っていく。慌てて後を追うが、到底追いつけるものではない。私の大きさでは、根に飛び移ってはよじ登り、飛び移ってはよじ登りを繰り返さなくてはいけない。

 紳士は、少し先まで行くと立ち止まる。振り向きはしないが、どうも私を待ってくれているようだ。羽を休めている大きなカラスのように見える。

 私がある程度、近くまで来ると、また進み出す。このペースではとてもついて行けない。