初夢で逢えたら
「マクラになるかも知れない話」 第六回
- 落語
三遊亭 萬都
2026/01/24
お迎えに上がりました
気がつくと、長い長い一本道を歩いていた。
地平線まで、ずうっと腰ほどの高さの草が青々と茂っていて、その草の海原を私の歩いている赤土の道が真っ二つに割っている。空は、雲ひとつない。
なので、目に入る色は道の赤、草原の緑、空の青。たった三色だけだ。なぜ道を歩いているのか、どこへ向かっているのかはわからなかった。
ただひとつ、もし振り返って、後ろも同じような景色だった場合、前後がわからなくなってしまうかも知れない、と思うと怖かった。怖いので振り返らずに、一歩一歩、歩いていた。

どのくらい歩いたのか。私の進む道の上に黒い点のようなものが見えた。それは、少しずつ少しずつ大きくなっていく。ある程度、大きくなったところでそれが、こちらに向かって歩いてくる人影であることに気がついた。
人影は、男だった。背が高く、痩せぎすで全身真っ黒の服を着ている。黒い服は燕尾服のようで、さらにそこへ黒いトップ・ハットをのっけている。顔はよくわからないな、と考えながら私も歩みを止めず、その黒い紳士の方へ向かって進んだ。
「でかくない?」
思わず声に出た。
ある程度、近くなって気づいたが、黒い紳士が大きすぎる。背が高いなとか言う話ではなく、近づくにつれて、人類としてはおかしなサイズであることがわかってきた。バスケットボールのゴールにジャンプせずにおでこがぶつかるくらいの高さだ。
驚きはしたが、不思議と怖くはなかった。
どんどんどんどん、紳士は歩いてくる。私も歩いて行く。
とうとう紳士と会話のできる近さになった。やはり紳士の背は異常に高く、私の頭は紳士の腰のあたりにやっと届くかどうかというところだった。紳士は、私の顔をのぞき込むように体をくの字に曲げると、
「お迎えに上がりました」
と言った。そしてくるりと回って、私と同じ方向を向くとすたすたと歩き始めた。
どうやらついて行かねばならないらしい。私は、紳士の少し後ろを歩くようにした。紳士は、異常に長い足の歩幅を私に気を遣って合わせているようだった。
しばらく紳士と歩いていたが、沈黙が気まずくなってきた。そこで「こんなに広々としたところなのに動物やなんかが一匹もいませんね」と話しかけてみた。
紳士は急に立ち止まり、
「そんなことはありません。よぉく、ご覧なさい」
と言った。言ったきり、紳士は前方を向いたまま動かなくなってしまった。ご覧なさいと言われても、どうしたものかと思ったが、紳士は一向に動く気配がない。
仕方なく私は空をながめることにした。どこまでも青。吸い込まれそうな青。時折、風が草むらを揺らすくらいで、耳が痛くなるほど、静か。
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