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寿限無、淀五郎、寝床

「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第10回

寿限無、淀五郎、寝床

寝床(画:おかめ家ゆうこ)

林家 はな平

執筆者

林家 はな平

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第1回はこちら

二十八席目 『寿限無』(じゅげむ) 

[ワンポイント] 落語は、江戸の庶民の暮らしが背景にある芸能だ。この噺に出てくる夫婦も特別な人ではない。学はないけれど、子どもへの愛情だけは人一倍。その不器用さが、結果的にとんでもない事態を招いてしまう。

【あらすじ】

 ある夫婦のところに男の子が生まれた。夫婦は字の読み書きもあまりできない学のない二人なので、近所のお寺の和尚に名前を考えてもらう。

 その名前の候補となる紙には、

 「寿限無、寿限無、五劫のすりきれ、海砂利水魚の、水行末・雲来末・風来末、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命の長助」

 とあった。どれもご利益があって長生きする名前だと言うので、1つを選べない二人は、これをすべて名前にすることにした。ここに、とても長い名前の子どもができてしまう。

 やがて、学校へ通うようになると、友だちが朝誘いに来るが、あまりに名前が長いので、名前を言い立てる間に登校の時間が来てしまう始末。

 ある日、喧嘩をしてコブを作った友だちが家にやってくるが……

【オチ】

友だち 「おばちゃんとこの、寿限無寿限無…(略)…長助ちゃんが、あたいの頭ぶって、コブこさえた」
母親 「じゃあウチの、寿限無寿限無…(略)…長助がとらちゃんの頭ぶってコブこさえたのかい? お前さん聴いたかい? ウチの寿限無寿限無…(略)…長助がとらちゃんの頭ぶってコブこさえたとさ」
父親 「じゃ何かい? ウチの寿限無寿限無…(略)…長助がとらちゃんの頭ぶってコブこせえたのかい? おう、とらちゃん頭見せてごらん。あれ、コブなんかどこにもねえじゃねえか」

友だち 「あんまり名前が長いから、コブが治っちゃった」

【解説】

 
 落語家の芸名は師匠がつける。自分で考えることはない。師匠がある日、「お前の名前はこれだ!」とつけてくれる。早い人だと、入門してすぐ。私の場合は、入門から1ヵ月後につけてもらった。

 師匠・正蔵が、半紙に毛筆で書いてくれて、私に見せてくれた。あの朝のことは忘れない。

 「林家はな平」

 これが、僕の名前なのか? 最初はしっくり来なかった。だが、その日から本名を使うのは公的な書類を書く場合くらいで、99%は芸名を使うようになる。気がつくと、林家はな平という身体になっているのだ。

 師匠が結婚記念で庭に植えた「しだれ桃」の花が綺麗に咲いているのを見て、考えてくれた。これが由来だ。「もも平」「しだれ平」の可能性もあったが、「はな平」で良かった。ちなみに、師匠夫婦が結婚した年と私の生まれ年は同じだ。

 さて『寿限無』である。この噺は、口慣らしの噺ではあるが、決して早口言葉を言い立てることが眼目ではない。テーマは「親の情愛」だと思う。子どもに長生きをしてほしい、健やかに育ってほしい、その気持ちが溢れてしまった結果、提案された名前をすべてつけてしまったのである。小学校や親子寄席では定番の噺で、どんなに落語を知らない人でも『寿限無』だけは絵本か何かで知っていることが多い。

 元々のサゲは、「コブが引っ込んじゃった」だったが、数年前に結婚披露宴でこの噺をやる機会があって、「引っ込んじゃった」は忌み言葉になっちゃうんじゃないかと気になってしまい「コブが治っちゃった」に変えてやったら、それ以降はこの言い方になった。