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謎のカバ臭と忘れ物キング ~桂雀々エピソード2

「ラルテの、てんてこ舞い」 第3回

愛すべき落語家の癖

 話を戻そう。師匠の忘れ物が多いのは、枝雀師匠ゆずりかもしれない。枝雀師匠も落語のこととなると、ほかのすべて忘れるくらい没頭してしまう癖があるらしい。

 昔、枝雀師匠と雀々師匠、ほか数人でハワイに遠征に行く、そのフライトを待つ間。枝雀師匠が落語談義を始めたところ、熱が入りすっかり夢中になって、その一行全員は乗るはずだった便に遅れたそうである。

 雀々師匠も落語のことを考えると、ほかのことが考えられなくなる癖がある。

 「あぁ、あの演目のオチはこの方がええな」
 「あの噺の途中はもう少し簡略化して、ここを盛り上げたほうが噺としておもろいな」

 ……などなど。そんなことを考えると、夢中になって何時間も冷めた風呂に入り続けてしまうらしい。忘れ物もその延長だろう。いかにも「芸人ぽい」と言えば、そうなのだ。

 そんな話を聞けば、忘れ物のひとつやふたつで小言を言う私の方が、懐が狭いと感じてしまう。

 代理で忘れ物を取りに行く手間はなくなったが、今ではその手間がないのも寂しいものである。忘れ物キングである雀々師匠。でも落語好きの多くの人たちには、ずっとずっと師匠のことを忘れないでいただきたい。

 そう思う、今日この頃なのである――。

(毎月17日頃、掲載予定)