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古典? 新作? 浪曲シートン動物記

「浪曲案内 連続読み」 第6回

オオカミたちの足跡に心を動かされる

 東家一太郎の本格的な新作浪曲の第一作目が、シートン動物記より「オオカミ王ロボ」です。

 2010年、まだ入門3年目(だったのか!)の一太郎は、動物好きの東家美と一緒に、上野の国立科学博物館で開催中の「大哺乳類展」に行きました。

 シートン動物記の作者であるアーネスト・トンプソン・シートンの生誕150周年ということで、シートンに関する展示がありました。

 大きなパネルに二頭のオオカミの足跡が描かれています。大きな足跡がロボ、それより小さな足跡がブランカ。

 ワナが隠され、肉が置いてある場所へ近寄ろうとするブランカを、ロボが止めています。動物たちの感情が、足跡から読み取れます。

 この絵を見たとき、閃きました。

 「これは義理人情の浪曲、浪花節だ!」

 どうやらそれを言ったのは一太郎ではなく、美さんだったそうなのですが、私に記憶のすり替えが起きるくらい、2人に衝撃を与えた絵であることは間違いありません! 愛するブランカを守るロボ。

 「人も動物も同じ」――シートンが伝えるテーマを、私は今まで生きてきて初めて知りました。

 シートンが動物の物語を書くのみならず、その絵も自分で描いていることにも驚きました。新作浪曲を作るなら老若男女、誰でもわかるものがよいと題材を探していたときに、「オオカミ王ロボ」と出逢ったのです。

 動物の物語ならば、みんなで浪曲に親しんでいただけるのではないか――。

 早速、童心社刊のシートン動物記『オオカミ王ロボ』の本を買いまして、足跡の絵を浪曲にしようと2人で作りはじめました。

 ひとまず完成した新作浪曲「オオカミ王ロボ」を勉強会で披露した際に、シートン動物記の翻訳者・動物学者でいらっしゃる今泉吉晴先生の奥様が、「浪曲でシートン動物記をやる人がいるんだ」と調べてくださり、浅草まで聞きにいらしてくださったのです。

 その後、今泉先生ともご縁をいただき、お住まいのある岩手県花巻市東和町で浪曲会を開いていただきました。さらに、10周年の記念の会にはゲストとしてご出演。また、台本を監修いただくとともに、シートンや動物について詳しく教えていただく中で、15年もの長い時間をかけて「オオカミ王ロボ」を舞台で磨いてきました。

動物学者の今泉吉晴先生(中央)との一枚(撮影:関戸勇)

 あとから知ったのですが、あの足跡のパネルのあったシートンの展示は、今泉先生のご監修だったそうで、先生と奥様の観音様のような優しい手のひらの上で、私たちは遊ばせていただいたように思います。