NEW
残された街と残された人と
「二藍の文箱」 第6回
- 落語
三遊亭 司
2025/11/02
野暮天高校生
お稽古に通っていた当時、ボケないようにと、お師匠さんは一行日記をつけていた。
ある日、師匠宅に稽古に行くと、日記帳をひらいてなにやら書いてる。「ちょっと待って、わすれないうちに日記つけちゃうから」と。鉛筆を手にした師匠は、筆圧こそ強くはないが上品な筆跡で「司さんがきて、いろいろとしてくれた」と、まだ荷物をおろすかおろさないかのうちに、そう書いていた。
実際、世界湯というお湯屋を曲がった路地の長屋から外に出ると、豆腐屋が自転車の荷台に商売物を置き、喇叭(らっぱ)を吹いたり、少し行くと持ち帰りのおでん屋があったり、すぐ目の前の甘酒横丁におつかいに行くのと、小唄の稽古はふたつあわせだった。
ちなみに甘酒横丁には、三代目桂三木助や十七世中村勘三郎が贔屓(ひいき)にした煎餅屋・草加屋が、いまだにその味を守っている。
わたしが人形町のお師匠さんのところに通うようになったのは、2008年(平成20年)の頃だと思う。
懐かしく甘酒横丁の銘居酒屋・笹新の横を入っても、今は世界湯もなければ住まいだった長屋もない。もう三味線の音は聞こえない。そんな感傷にひたれないほど、街は変わっている。それは街の宿命でもある。
人形町に通うそれ以前に、小唄の稽古をはじめたのは1995年(平成7年)だか1996年(平成8年)だか、高校生の時のことだった。稽古場と歯医者は近い方がいい。そんな言葉は後年知るが、地元蒲田の小唄の稽古場に通いはじめた。
落語家になる前に落語を喋ったことはないが、落語家になるんだから、小唄のひとつも歌えたらいいだろう、と。まぁ、そんなことを考える、本格的におかしな高校生だった。
それまでは、地元大田区にある中学までしかない小中一貫校で育ち、その学校の仲間や先生、空気に馴染み過ぎて、その反動か高校はほとんど行っているだけで3年間がおわってしまった。
なので、クラスメイトが気合いを入れる学園祭なんかも、「はい、ご苦労さん」てなもんで、ほとんど関わっていない。クラスにこういうやつがいると、どうも締まらない。まとまらない。青春を満喫したい同級生には、さぞ厄介だったと思う。
放課後、学園祭の準備が佳境に入っても「では、小唄の稽古がありますので、お先に」と、ひとり三味線を手に提げてそそくさと帰って行った。そういう、高校生。
全く、鼻持ちならないやつだ。

いま読まれています!
「座布団の片隅から」 第1回
憧れ
~中島らもさんが輝いて見えた
三遊亭 好二郎
2025/05/07
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第7回
ビールの秋、日本酒の秋、わたしの美が深まる秋
東家 千春
2025/11/03
「二藍の文箱」 第6回
残された街と残された人と
~15年前のテープを聴く夜。時代を超えた絆の物語。
三遊亭 司
2025/11/02
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第14回
自分らしく、まっすぐに 神田菫花(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/10/28
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第16回
自分らしく、まっすぐに 神田菫花(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/10/30
「伯知の日本酒漫遊記 ~酒は“釈”薬の長」 第4回
四合目 ~京都漫遊記 〈弐〉
~キザクラ・カッパカントリー 黄桜記念館」(京都市伏見区)へ
松林 伯知
2025/11/01
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第15回
自分らしく、まっすぐに 神田菫花(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/10/29
「座布団の片隅から」 第2回
天敵
三遊亭 好二郎
2025/06/07
「令和らくご改造計画」
第三話 「内輪ノリ」
~またも前座が楽屋を混乱に陥れる!
三遊亭 ごはんつぶ
2025/10/12
「かけはしのしゅんのはなし」 第5回
スポーツの秋! 落語家がサーフパンツで舞台に立つ日
~筋肉は裏切らないが、笑いはたまに裏切る?
春風亭 かけ橋
2025/10/18
「二藍の文箱」 第6回
残された街と残された人と
~15年前のテープを聴く夜。時代を超えた絆の物語。
三遊亭 司
2025/11/02
「座布団の片隅から」 第1回
憧れ
~中島らもさんが輝いて見えた
三遊亭 好二郎
2025/05/07
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第7回
ビールの秋、日本酒の秋、わたしの美が深まる秋
東家 千春
2025/11/03
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第16回
自分らしく、まっすぐに 神田菫花(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/10/30
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第14回
自分らしく、まっすぐに 神田菫花(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/10/28
「伯知の日本酒漫遊記 ~酒は“釈”薬の長」 第4回
四合目 ~京都漫遊記 〈弐〉
~キザクラ・カッパカントリー 黄桜記念館」(京都市伏見区)へ
松林 伯知
2025/11/01
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第15回
自分らしく、まっすぐに 神田菫花(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/10/29
「かけはしのしゅんのはなし」 第5回
スポーツの秋! 落語家がサーフパンツで舞台に立つ日
~筋肉は裏切らないが、笑いはたまに裏切る?
春風亭 かけ橋
2025/10/18
「二藍の文箱」 第3回
前座見習に師匠見習
~今年の春、弟子を取った
三遊亭 司
2025/08/02
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第6回
私が落語に感動した日 ~学校寄席の桂さんと鶴瓶師匠
~今も大切な記憶の宝物
服部 拓也
2025/10/25
「テーマをもらえば考えます」 第3回
ハロウィン
~ご祝儀くれなきゃ、イタズラするぞー
三遊亭 天どん
2025/10/31
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第14回
自分らしく、まっすぐに 神田菫花(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/10/28
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第15回
自分らしく、まっすぐに 神田菫花(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/10/29
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第6回
〈書評〉 笑辞典 落語の根多 (宇井無愁 著)
~落語の源流を辿る、笑いの宝庫!
杉江 松恋
2025/10/29
「かけはしのしゅんのはなし」 第5回
スポーツの秋! 落語家がサーフパンツで舞台に立つ日
~筋肉は裏切らないが、笑いはたまに裏切る?
春風亭 かけ橋
2025/10/18
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第16回
自分らしく、まっすぐに 神田菫花(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/10/30
「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第5回
〈書評〉 パズルと天気 (伊坂幸太郎 著)
~私は禁断の扉を開いた
笑福亭 茶光
2025/10/30
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第6回
〈書評〉 名探偵 円朝 明治の地獄とマイナイソース (愛川晶 著)
~語りの妙が冴える、落語×ミステリーの極み
杉江 松恋
2025/10/19
「伯知の日本酒漫遊記 ~酒は“釈”薬の長」 第4回
四合目 ~京都漫遊記 〈弐〉
~キザクラ・カッパカントリー 黄桜記念館」(京都市伏見区)へ
松林 伯知
2025/11/01
「二藍の文箱」 第6回
残された街と残された人と
~15年前のテープを聴く夜。時代を超えた絆の物語。
三遊亭 司
2025/11/02
「令和らくご改造計画」
第三話 「内輪ノリ」
~またも前座が楽屋を混乱に陥れる!
三遊亭 ごはんつぶ
2025/10/12
「かけはしのしゅんのはなし」 第5回
スポーツの秋! 落語家がサーフパンツで舞台に立つ日
~筋肉は裏切らないが、笑いはたまに裏切る?
春風亭 かけ橋
2025/10/18
シリーズ「思い出の味」 第14回
馬琴と琴星と琴鶴と琴人と ~師弟の食事はいつもちぐはぐ
~どじょう鍋からサンドウィッチまで。師弟の食卓は、人生の味がする
宝井 琴鶴
2025/10/17
「エッセイ的な何か」 第5回
10/9は、アメリカンドッグの日 →兄さんに呼び出された男の困惑
~その男は『ドッグ』と呼ばれた!
三笑亭 夢丸
2025/10/21
「マクラになるかも知れない話」 第三回
となりは鼻うがいをする人ぞ
~ねぇママ、パパは何をしているの?
三遊亭 萬都
2025/10/22
「浪曲案内 連続読み」 第6回
古典? 新作? 浪曲シートン動物記
~オオカミの足跡に宿る義理人情
東家 一太郎
2025/10/17
「令和らくご改造計画」
第一話 「危機感をあなたに」
~笑撃のストーリーが今、始まる!
三遊亭 ごはんつぶ
2025/08/12
「まだ名人になりたい」 第5回
秋白し
~私は秋の名物に「発情期の鹿」を加えたい!
柳家 さん花
2025/10/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第4回
上方落語大会議「なんぼでなんぼ」
~苛酷な仕事、ギャラなんぼやったら行く?
桂 三四郎
2025/10/24
「くだらな観音菩薩」 第6回
鑑真和上
~そう、諦めちゃあいけないんだ
林家 きく麿
2025/10/16
編集部のオススメ
「二藍の文箱」 第6回
残された街と残された人と
~15年前のテープを聴く夜。時代を超えた絆の物語。
三遊亭 司
2025/11/02
「伯知の日本酒漫遊記 ~酒は“釈”薬の長」 第4回
四合目 ~京都漫遊記 〈弐〉
~キザクラ・カッパカントリー 黄桜記念館」(京都市伏見区)へ
松林 伯知
2025/11/01
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第4回
上方落語大会議「なんぼでなんぼ」
~苛酷な仕事、ギャラなんぼやったら行く?
桂 三四郎
2025/10/24
「マクラになるかも知れない話」 第三回
となりは鼻うがいをする人ぞ
~ねぇママ、パパは何をしているの?
三遊亭 萬都
2025/10/22
「エッセイ的な何か」 第5回
10/9は、アメリカンドッグの日 →兄さんに呼び出された男の困惑
~その男は『ドッグ』と呼ばれた!
三笑亭 夢丸
2025/10/21
「くだらな観音菩薩」 第6回
鑑真和上
~そう、諦めちゃあいけないんだ
林家 きく麿
2025/10/16
「令和らくご改造計画」
第三話 「内輪ノリ」
~またも前座が楽屋を混乱に陥れる!
三遊亭 ごはんつぶ
2025/10/12
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第6回
ビール飲み干し、そしてわたしに秋が来る
~時にヒリヒリ、時に爆笑の舞台裏
東家 千春
2025/10/03