2026年3月の最前線(聴講記:令和鹿芝居「髪結新三の巻」/玉造小劇店「カラサワギ」、講談界短信)
「講談最前線」 第16回
- 落語
- 講談
瀧口 雅仁
2026/03/17
聴講記:令和鹿芝居「髪結新三の巻」
芝居でも落語でも、そして講談でも高座でかけられることがある『髪結新三(かみゆいしんざ)』。
歌舞伎でいう『梅雨小袖娘八丈(つゆこそでむすめはちじょう)』に臨んだのが、林家はな平率いる令和鹿芝居だ。これまで『菅原伝授手習鑑』『怪談牡丹燈籠』『百年目浮世番頭』といった演目を、芝居心のある芸人を集めて、その名の通り、令和の世に向けて披露してきた。
今回の『髪結新三』は全段全場を演じると長くなるため、いわゆる「鰹の強請(かつおのゆすり)」と称されることもある、主人公の新三が連れ去ったお熊という女性を取り戻そうと、その亭主になる勝奴が車力の善八に頼むも失敗し、実は新三以上の小悪党ぶりを発揮する家主・長兵衛が話をまとめてみせるという場を軸にして、その前段にあたる場は、昨秋、真打に昇進した金原亭馬好が落語で演じた(なお、馬好は後半の芝居では、お熊役で出演)。
この芝居、「さすが江戸っ子! 強きをくじき、弱きを助ける」とは真逆で、「たとえ世を図太く生きていくも、どこかでお天道様は見ているものだ!」という、登場人物たちの気概を描き込んだ台本と、出演者の躍動ぶりに観客に胸がすくといった演出が、落語らしさを失わさせずに、芝居の楽しさを引き出した点に好感を覚えた。

芝居の主役は、言うまでもなく髪結の新三であるが、その新三を上回るふてぶてしさでもって、新三をやり込めるのが家主・長兵衛であり、今回、宝井琴凌がそれに挑んだ。
新三の自分勝手で一方的な言い分に対して、長兵衛が新三に詰め寄る戦法は理詰めであると言える。それはまた、大家という身分が見せる貫禄だからこそ、効果的なのであり、そうした家主の悠々とした姿を見せた琴凌の演技が芝居を盛り立て、その演技を前に観ているこちらのモヤモヤしていた思いの溜飲を下げた。わがまま勝手を主張し続ける新三に対して、コラッ!と叱る訳ではないが、その堂々とした立ち姿と、どこか講釈師らしい硬めの語りが新三を取り込んでしまうのが面白い。
そしてそんな長兵衛を前にタジタジとしてしまう、古今亭志ん雀演じる新三。どこか頼りなさそうに見えるも、実は今回演じられた場以降では、新三に立ち向かう、座長はな平が演じる源七。新三の威を借りて暗躍する勝奴役の軽快な柳家緑也と、生世話物にふさわしく、出演者がいかにも長屋に暮らしている人のような言動を取るのは、やはりそうした舞台をいつも語り上げる落語家や講釈師がなせる業であるからか。

今回の場面の続きも見てみたいし、また年末には新たな演目で挑むということなので、そこでの演技を楽しみにしていきたい。多くの人にもっと見てもらいたい芝居であった。
(2026年1月22日、深川江戸資料館小劇場にて)
主役・新三を演じた、古今亭志ん雀師匠のエッセイ
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