〈書評〉 五代目小さん芸語録 (柳家小里ん 著・石井徹也 聞き手)
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第2回
- 落語
- Books
杉江 松恋
2025/06/29
理詰めで磨き上げられた柳派の芸
本書の著者である柳家小里んは1948年生まれ、1969年に五代目小さんに入門して前座名・小多けを貰い、二ツ目昇進時に現在の名となった。1983年に真打昇進を果たしており、浅草生まれらしい気風を感じられる芸で、ファンは多い。
聞き手を務める石井徹也は故人で、放送作家であると同時に演劇・落語評論でも名高い。編著の『十代目金原亭馬生 噺と酒と江戸の粋』(小学館)は名著であったが、本書にも石井の最良の部分が表れている。
とにかくすべての章に発見がある一冊で、特に「蜘蛛駕籠」に関するくだりには感心させられる。東海道川崎宿近くの六郷の渡しが舞台で、客待ちをする駕籠かき二人が主人公だ。
ここで石井が、最近の演者の中に駕籠かきが棒を突かない仕草をする人がいて驚いたという話題を振る。一方の手で駕籠を担ぎ、もう一方で地面に棒を突くことで前方への推進力とするのである。
それを小里んは「ウチの師匠は前棒と後棒の棒の使い方は細かく言ってましたよ。後棒はとにかく、前に駕籠があるんだから横に出すよりしようがない」と受ける。お判りになると思うが、駕籠があるから体の前に棒を突けばぶつかってしまうのである。
「蜘蛛駕籠」は、主人公たちが見ていない隙に、途中で駕籠に乗ってしまう客が出てくる。そのときの仕草についても納得させられる説明がある。その人の了見になる、という教えが精神論のように言われることが多い柳派だが、決してそんなことはなく、理詰めで磨き上げられた芸であるということを改めて認識させられる。
この章は台詞のテンポや場面転換のコツなどについても詳細な解説が入る、一冊中の白眉なのだが、私が好きなのは最後のやりとりだ。「蜘蛛駕籠」は結末で突然、それまでの駕籠かき二人を視点人物としたやりとりから離れ、遠景で駕籠を見守る親子の会話になる。
石井がそれに疑義を表し、サゲの台詞も駕籠の客に言わせることはできないか、と質問する。つまり遠景にしないやり方だ。小里んはこう答える。
小里ん ありかもしれないけど、ただね、お客さんをサゲまで引き付けるには、あそこで「おっとっつぁ~ん、面白い駕籠が通るよ」といって、情景を一度、お客さんに印象づけるのも必要なんじゃないでしょうか。駕籠の中の客のセリフで言ってしまうと、尻つぼみになるというか、「間抜けな駕籠が行く情景」を誰かが見てるところにお客を引き込んだほうが、サゲになりやすいんでしょうね。
なるほど、やはり落語は聴き手の想像力を味方につける、総合芸術なのだなあ、と思った次第。
(以上、敬称略)
(毎月29日頃、掲載予定)
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