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真夏の甘美

シリーズ「思い出の味」 第12回

秋田のドリアンは、恋の味

 いろいろ終わった後に、「貞奈さん、暑い中わざわざ来てもらって悪いわねぇ……」と言って、琴梅先生の女将さんでもある琴桜先生が、「この時期に、地元の秋田から贈って来るのよ。ドリアン、食べる?」と言って出してくれたのが、私とドリアンの初対面であった。

 「ドリアン? それってあのくっさいフルーツの王様のこと?」
 「それが秋田から来たの? どういうこっちゃ!」
 「でも、先輩の出してくださるものは絶対に食べなきゃならん! どうしよう!!」

 と思っているうちに、琴桜先生が「溶けやすいから、早く食べてね」と言って冷凍庫から素早く取り出してきたのは、真っ白いアイスキャンディ。

 「ありがとうございます」と言いつつ、恐る恐る口に入れてみると……カプリッ――。

 カチコチかと思いきや、拍子抜けするほど柔らかく、まるで秋田の清涼な夏の空気をそのまま凍らせたかのように、軽やかにほどけていく。ミルクの甘みがふんわりと広がり、喉の奥までひとすじの涼しさがすべり落ちる。

 アイスキャンディだと思っていたのに、口の中では雲を食べているよう――そんな驚きと幸福が同時に訪れた……。

 「なんじゃこりゃ! ばっかウマいじゃんか!! 秋田県人、なんちゅーもん作ってるんじゃぁぁぁ!!!」

アイスドリアン(小松屋本店 楽天市場 販売ページより)

 後で調べたところ、販売元の小松屋本店の二代目が戦時中の台湾出兵の際に食したドリアンの美味しさを、ドリアン抜きで再現したアイスだそうだ。「ドリアン抜きのドリアンって、どういうこと!?」という愚問は置いておいて、これは本当に美味しすぎた。

 その後も琴梅先生の家に行くたびに「ドリアンないかな~?」という淡い期待を抱いていたが、なかなか食べることができなかった。が、つい先日。今度は新しいプリンターの設定をしてほしいということで、またまた夏の暑い頃にお邪魔したところ、

 「秋田からねぇ~贈ってきたの~」

 と言って出してくださった、ドリアンあずき味! ひょ~~~!! 美味でござりまするぅ~~~~!!! 6年前の夏が、鮮やかに息を吹き返した。ずっと胸の奥で温めていた記憶の人に、再び手を取られたような甘さ。ふんわり広がるミルクの香り。柔らかくほどける口溶け。

 あぁ、この味を忘れたことは一度もなかった。恋の続きが始まるように、もう一口を迷わず重ねる。次に会える日まで、この余韻を抱きしめて。次は何年後になるんだろう。

 ……いや、そうじゃない。琴桜先生に毎年ドリアンを贈るお客様、そのシーズンになったらこっそりご一報ください。その時は――安兵衛駆け付け、いや、貞奈駆け付けで風を切って参りまする!!!

一龍斎貞奈 出演情報

(了)