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“施設長X”の献身

「噺家渡世の余生な噺」 第6回

六、献身の正体

 今日もXは、虚栄心を満たしている。

 人手不足を人材派遣会社の力でしのぎ、その社長から「お得意様」と感謝されるためだ。だがその感謝は裏返せば、辞めていく者の多さを意味し、派遣会社が労働者から差し引いた分で成り立つ搾取の構造の上にある。

 それでもXにとっては、称賛と報酬が揃う限り、何よりの栄誉でしかない。現場で疲弊する職員の顔や、退職者の穴を埋めるために派遣される者たちの影は、虚像に沈む栄誉の裏に潜む、見えない代償であった。

 制度の抜け穴と地主の財力、形式的監査とヒエラルキーの支配――全てが組み合わさり、Xの「献身」は一見、美談のように映る。しかしその背後には、疲弊と搾取、そして制度の盲点に寄り添った冷徹な現実があったのだ。

 そして何より決して忘れてはならない現実。それは、この物語はフィクションであり、架空の“施設長X”の献身を俯瞰的に描いた超短編小説であること……

(毎月14日頃、掲載予定)