〈書評〉 待ってました名調子! (国本武春 著)
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第12回
- 浪曲
- Books
杉江 松恋
2026/04/29
入門書としての完成度と編者の功績
2010(平成22)年12月、武春は大病を患い、人生で初の長期入院をすることになる。複数の証言者が、そこで人生観の転換があり、古典的な浪曲にもう一度目を向けるきっかけになった、と語る。『待ってました名調子』はその頃に書かれた本なのである。第4章で自身の半生について語り終えた武春は、残る2章を浪曲初心者のための手引きに用いている。
第5章「浪曲、寺子屋」は、この芸能に関するあれこれを語った豆知識集、第6章「浪曲って、けっこうイケてる~!」では付録CDと連動して、浪曲のさまざまな節について解説している。これと武春の相三味線であった沢村豊子のDVD『浪曲三味線 沢村豊子の世界』(武春堂)を併せ聴けば、浪曲の世界が概観できるはずである。
飛ばした第3章は、武春が憧れた先人の浪曲師・曲師の月旦になっている。武春は当時唯一の、そしてもしかすると最後かもしれない新人浪曲師としてこれらの人の薫陶を受けたのである。芸談集としてもこの章は興味深い。
内容は割愛するが、人名だけを羅列しておこう。四代目天中軒雲月、初代東家浦太郎、松平国十郎、浪花家辰造、三代目玉川勝太郎、二代目篠田實、五月一朗、初代京山幸枝若、初代真山一郎、国友忠、二代目玉川福太郎、天津羽衣、二代目春野百合子、岩崎節子、沢村豊子の面々である。昨年沢村豊子が亡くなって、とうとう全員が鬼籍に入ってしまった。
こうして見ると、浪曲師・国本武春の軌跡を知ると同時に、この芸能について知るための入門書としても秀逸であることがわかる。構成を担当した浪曲作家・稲田和浩の功績も大きいだろう。浪曲についてこれから知りたいと思っておられる方には、拙著『浪曲は蘇る 玉川福太郎と伝統話芸の栄枯盛衰』(原書房)、ならびに共著『100歳で現役! 女性曲師の波瀾万丈人生』(光文社)と併読をお薦めする次第である。
(以上、敬称略)
▼杉江松恋 X

- 書名 : 待ってました名調子!
- 著者 : 国本武春
- 出版社 : アールズ出版
- 書店発売日 : 2012年1月
- ISBN : 9784862042156
- 判型・ページ数 : B6判・176ページ
- 定価 : ―
(毎月29日頃、配信予定)
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