〈書評〉 待ってました名調子! (国本武春 著)
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第12回
- 浪曲
- Books
杉江 松恋
2026/04/29
国本武春という光
国本武春『待ってました名調子!』(アールズ出版)は、浪曲ファンにとって特別な一冊である。
浪曲師の伝記・自伝は少なくないが、国本武春『待ってました名調子!』には類書と違った意味があった。本が出たのは2012(平成24)年、このとき浪曲界は、かつての衰亡状態を脱して、ようやく光が見えたという時期だった。光とは国本武春そのものである。武春がいれば浪曲はまだ大丈夫、いや新しい可能性だって拓けるかもしれない。そういう期待をファンに抱かせてくれた存在だったのである。
武春と並んでそうした希望を担っていたのが、二代目玉川福太郎である。福太郎が世間に注目されたきっかけは、弟子である玉川奈々福の企画によって2004(平成16)年に浅草木馬亭で開催された「徹底天保水滸伝!」だった。そこから一気に注目が集まり、福太郎に任せておけば浪曲界の未来も明るい、と皆が思っていた矢先の2007(平成19)年5月23日に事故で急逝してしまう。
それでも浪曲界が潰えなかったのは、国本武春がいたからである。武春が浪曲師としての初舞台を踏んだのは1982(昭和57)年のことだが、他ジャンルの真打に当たるキャリアを積んだあたりから人気が急上昇していく。1996(平成8)年に文化庁芸術祭演芸部門新人賞と浅草芸能大賞新人賞を相次いで獲得したのを皮切りに、2000(平成12)年には芸術選奨文部大臣新人賞、2002(平成14)年には花形演芸大賞を受賞している。
後者は芸歴20年以内の者を対象にしており、初めに銀賞、そして金賞と積み上げていって初めて大賞挑戦の資格が得られる。福太郎の弟子、玉川太福が2026(令和8)年に芸選奨文部科学大臣賞と花形演芸大賞金賞を受賞し話題になったが、そこからもう一歩踏み込んで大賞まで辿り着くことはできるだろうか。
現象から言えば、先に世間に対して浪曲をアピールしたのは国本武春で、後輩が準備した舞台に満を持して福太郎が登場した、というのが正しいだろう。武春がいかに期待されていたかは、まだ看板とは言いがたい1993(平成5)年8月に、専門誌「月刊浪曲」が特集を組んでいることでもわかる。
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