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船旅のススメ

「すずめのさえずり」 第十回

船旅のススメ

画:原田みどり

古今亭 志ん雀

執筆者

古今亭 志ん雀

執筆者プロフィール

 大船に乗っている。

 と言っても、なにも安心しているわけではない。文字通り大きな船に乗って、この稿を書いている。

 商船三井客船が誇るクルーズ船「にっぽん丸」の船内で落語を喋る、という仕事。

 落語家になり業務乗船をさせていただくまでは、こういう世界があることもほとんど知らなかった。今回は、そんな船旅の魅力を少しばかりお伝えしたい。

 かつて、大陸間の移動は、オーシャンライナーと呼ばれる、高速の豪華客船が担っていた。かの「タイタニック」も、栄光のオーシャンライナーとして、大西洋航路に華々しくデビューするはずだったのだ。速達性を求めたがゆえのスピード記録への挑戦が、あの事故を招いたとも言える。

 横浜に保存されている「氷川丸」も、日本郵船が誇ったオーシャンライナーだ。商船三井の前身である大阪商船も、戦前には世界各地に向かう大陸間航路を運営していた。

 やがて時が移り航空機が登場すると、移動手段としての客船はその役割を終えた。現在、定期的に運航されているオーシャンライナーは、米英間を結ぶ、英国キュナードラインの「クイーン・メリー2」のみである。

 現代の豪華客船は、観光地をゆったり巡るクルーズ船として、世界の海を渡っている。

 鉄道に例えるならば、新幹線の登場で姿を消したブルートレインや在来線の長距離特急に代わり、「四季島」などの豪華な観光列車が登場したようなもの。「クイーン・メリー2」は、さしずめ唯一現役の定期夜行特急「サンライズ出雲・瀬戸」というところか。

 そんなわけであるから、クルーズの旅はとてもゆったりしている。体力の限界まで予定を詰め込んで、一ヶ所でも多く回りたい、という人には、クルーズは不向きである。船に乗るという体験、それ自体を楽しめる人向けなのがクルーズだ。

 「クイーン・メリー2」も、定期航路とはいえ、まさかビジネスマンが何日もかかる船を今どき利用するはずもなく、やはり船そのものを旅の目的として楽しむ物に変わっているから、オーシャンライナー全盛の時代よりはだいぶゆっくり走っているとのこと。