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2026年5月のつれづれ(談修・菊春二人会、奈々福の徹底天保水滸伝、孝太郎の記念公演)

月刊「浪曲つれづれ」 第13回

奈々福が挑んだ長編浪曲連続読み!

 さて、2026年4月の公演では「玉川奈々福の徹底天保水滸伝」が4月24日(金)をもって完結したことについて触れておきたい。

 以前にもお伝えしたとおり「天保水滸伝」は玉川のお家芸であり、奈々福が師・玉川福太郎をプロデュースして公演を手がけた記念すべき会が「徹底天保水滸伝」だ。それに臨むにあたり、奈々福は「天保水滸伝」の物語を自身で咀嚼しなおし、外題によっては脚色も施して全体を再構成した。その結果なんと、最後の第四回はすべてを新作で語ることになったのである。

 この日はまず「亡霊剣法」から始まった。第一回に演じた「助五郎の義侠」(原話は『燃える大利根』)と同じく、直木賞作家・伊藤桂一が原作である。元からある「鹿島の棒祭り」や「平手の駆け付け」とは異なる、人間的には駄目な部分もあるが好きにならずにはいられない、はぐれ剣士の姿が描き出された。

 中入を挟み、大利根河原の決闘で笹川の繁蔵が勝利したその後を描く「助五郎と孫次郎」である。結局、繁蔵は助五郎の手下から闇討ちにあって命を落とし、一家は離散する。このくだりは弟弟子の太福も演じる別の外題になっているのだが、奈々福はあえて「助五郎と孫次郎」という新作を書き下ろした。4月4日の勉強会でネタおろし、この日がおそらく二回目の口演だろう。

「玉川奈々福の徹底天保水滸伝」の特徴は、飯岡の助五郎と笹川の繁蔵は、なぜ血で血を洗う抗争という愚かな行為に突き進んでしまったのかということを、深く掘り下げた点にある。「助五郎の義侠」で語られる前日譚で、抗争の種が蒔かれ、それが思わぬ方向に育っていってしまう。

「助五郎と孫次郎」では、ある登場人物が「俺たちはどこで間違えた」と絶叫する。それは抗争で命を落とした者すべての思いであっただろう。そういう観点から今回の「徹底天保水滸伝」を見ると、全体が見事な犯罪小説のような構成になっていることに気づかされる。

「助五郎と孫次郎」だけでは物語を完結させられなかったとして、奈々福は最後に短い「終幕」を付け加えた。15分ほどの長さであり、この先なかなか聴く機会もないと思うので、これはありがたいボーナストラックであったし、全体のエピローグとしても見事であった。詳しい方であれば、あの有名な登場人物は玉川の「天保水滸伝」には出ないのか、とないものねだりの思いをしたことがあるのではないか。その人が出るのである、「終幕」に。

 全四回、歴史に残る公演だったと思う。2026年前半は、これを聴けたことが最大の収穫となった。