第七話 「若手人気落語家殺人事件 【解決編】」
「令和らくご改造計画」
- 落語
三遊亭 ごはんつぶ
2026/02/13
#4
殺人の容疑で疑われたのは、古典派の、とある真打だった。
事件の前夜、しん作に激昂し、掴みかかる様子を目撃されていた人物である。世間は分かりやすい構図を好む。
新旧の対立。思想の衝突。いかにも、それらしい話だ。
だが、調べが進むと、その線はすぐに崩れた。疑われていた師匠は、しん作の死亡推定時刻、東京にいた。前座に稽古をつける予定があり、上野の協会施設内で複数の目撃証言もある。
事件は、東京から新幹線で3時間以上はかかる地方のホールで起きており、物理的に、犯行は不可能だった。
しかし、興味深い別の事実が浮かび上がる。
その日、その師匠が稽古をつけるはずだった相手の前座が、直前になって突然キャンセルの連絡をしていたというのだ。真打に稽古を頼んでおきながら、理由も告げずにドタキャンする。前代未聞と言っていい。
そして、その前座の名が判明する。
通亭(つうてい)まにあ。
これまで、何度も騒動を起こしてきた前座さんの一人だ。
警察が事情聴取を行った際、彼女は抵抗することもせず、すべてを語った。事件当日、彼女は真打の稽古をキャンセルし、なぜか東京から遠く離れた、しん作と同じ楽屋にいたのだ。
彼女が語った事件の全貌は、こうだ。
しん作は、古典も新作も演じる噺家だった。まにあにとっては、同じ協会に所属し、同じ立場で悩みながらも前を走る先輩だった。
そして二人は、先輩後輩にしては妙に距離が近かった。楽屋で二人きりで喋っていることも多く、帰りの時間が重なると、特に約束もせず、同じ方向へ歩いていくこともあったという。
周囲からは恋仲ではないかと囁かれていた。
だが、その真実を知る者はいない。同じ境遇にいる者同士の共感。芸人としての尊敬と憧れ。そして、そこに混じる、自分でも正体を掴みきれない感情。
そして事件当日、二人は楽屋で言い争っていた。
まにあは言った。
「……一度、休もう。兄(あに)さん」
それは提案というより、懇願に近かったという。
しん作は首を振った。
「休んだら、戻れなくなる」
即答だった。迷いを見せない声だった。
その一言が、まにあの中で、何かを決定的にしてしまったのだろう。
躊躇の末、まにあは隠し持っていたスタンガンを取り出した。殺すつもりなどなかった。ただ、「止めたかっただけ」だという。
しかし、結果は取り返しがつかなかった。
しん作は倒れ、そのまま、背後にあった火鉢に頭をぶつけた。焦点の合わない視線。何かを言おうとして、言葉が追いつかない。
ほとんど息のような声で
「……落語が好きなだけじゃ……いけねえ……のか……」
と言い残した。それが、古典亭しん作の最後の言葉だった。
これは、悲しい事故だったのだ。
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