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悩ましい食の話と雀々エピソード1
「ラルテの、てんてこ舞い」 第1回
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弁当。されど弁当……(画:石渡芙美)
弁当奮闘記
イベントプロデューサーとして、弁当のセレクトは重要な責務だと考えている。特に落語会に出す弁当には気を遣う。
高座前なので、男子高校生が好きそうなボリューミーな弁当では重すぎるだろうし、また、小鳥が食べるくらいの少量では、なんだかケチっているようでこちらが、どうにも心もとない。持ち帰る人も多いので、汁が出そうなものは論外。
じゃあ、カレーなんてどうだろうと一瞬考えるが、いやいや、楽屋中がガラムマサラの匂いに占拠される。もしも、今日は「そば清」をやろうと考えている落語家さんがいたら、脳内にガラムマサラがスッ~と入ってきて思考が中断される。「ああっ~邪魔になる!」とお叱りを受けるのは火を見るよりも明らかだ。
せめて、見た目も味も変わったものをと、いっときサンドイッチの弁当に懲り、事務所近くのお洒落パン屋さんにお願いしてパン弁当を作ってもらった。
これが意外にも華やかで、クロワッサンに玉子と小エビのサンドイッチに、デニッシュ生地のパンにローストビーフとキャロットラペ。小さなガトーショコラなんて気の利いた甘味なんかも添えられていて、パリのエスプリを感じさせる一品が完成した。
「おや、今日はパンの弁当?」
「いや、こりゃあ旨い」
「片手で食べられるのもいいね」
と、想像以上に好評だった。普段、特別褒められることもない仕事だが、落語会の最後に「今日の弁当、旨かったよ」と一言、言われただけで、私は天にも昇る高揚感に包まれるのだ。
かくして、件の「サンドイッチ弁当」は私のバズーカ砲になった。