映画館の暗闇で
「コソメキネマ」 第五回
- 浪曲
港家 小そめ
2025/09/21
映画館の闇と光
昔、とても落ち込んだ時期がありました。常に頭に石が乗っているような気分で、朝が来るのが苦痛。何を食べても味がしないし、楽しかったことも楽しくなくなり、何を観ても心が動かない。
人前では楽しいふりや、笑ったりもしていましたが、心底楽しいということはなく。
今にして思うと、何をそんなに思いつめていたのか、悩むほどのことだったのか、ぼんやりと曖昧にしか思い出せないのですが、目の前に黒い紗がかかったような暗い気分はよく覚えています。
性格的に深刻になり切れないところがあったのか、そんな状態にも関わらず、映画館だけにはよく出かけていました。
映画館の暗闇にいるとほっとしました。私も行き詰った状況を何とかしようと必死だったのでしょう、中毒のように映画館に通い、貪るように映画を観ていました。
そんな中で観たのが、岡本喜八監督の『ああ爆弾』です。
1964年公開、ジャズや浪曲、狂言まで多彩な音楽が取り込まれたモダンで洒脱、喜八監督のセンスが爆裂しているキレッキレなコメディ映画です(ちなみに公開当時の併映は、勅使河原宏監督の『砂の女』だそう。すごい組み合わせ)。
重い石を頭に載せたまま、観始めたのですが、観ているうちに引き込まれてドンドン楽しくなってきました。そして、沢村いき雄さん扮するシイタケが大金をネコババしようとするところで、ついに笑ってしまいました。
お腹の底から声を出して笑ったのが久しぶりで、自分の笑い声にびっくりしました。窓から急に光がパーッと差し込んだように、目の前が明るくなりました。
映画館を出たら、また頭の石は戻ってしまいましたが、映画を観ていた何十分間は、確かに石があることを忘れていました。映画ってすごいなぁ、と改めて思いました。
あの頃、観ていた沢山の映画や、映画の中の人たちや、美しい風景や音楽やかけてもらった言葉やいろいろなものに助けられて、取り戻しました。映画と映画館には恩義があるのです。
■今回の映画
『ああ爆弾』(1964年制作、岡本喜八監督、95分)
▼ああ爆弾 – 作品情報・映画レビュー

(毎月23日頃、掲載予定)
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