微笑みながら中指を
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
- 落語
桂 三四郎
2026/02/25
東京砂漠のこんばんは
ただ不思議なことに、僕は今まで一人暮らしのくせに、意外とご近所付き合いをして来たほうだ。
東京で最初に住んだ新宿のマンション。
帰ってきた時に交わした挨拶「こんばんは!!」の言い方がすごく素敵な好青年が一階に住んでいた。
その「こんばんは」の言い方がすごく気に入って、少しお酒が入ってたことと、東京砂漠の寂しさも相まって彼の部屋のインターホンを押して
「すみません、さっき挨拶した二階のものなんですが、よかったら一緒に飲みませんか?」
と尋ねてみたのだ。
今考えてみても相当ヤバい誘い方だし、もしかしたらそっちの組合の方に間違われてもおかしくない。
だがその好青年は、少し間があって
「少しだけなら……」
と、うちに遊びにきてくれた。
たまたま僕が前日に作ったアジの南蛮漬けを振る舞い、お酒を飲んで盛り上がり仲良くなった。
今、書いてて思ったけど、めちゃくちゃ気持ち悪いやつだな。
挨拶しただけの同じマンションの男を家に誘い、手料理を振る舞うという行動は常軌を逸脱している。。。
人間は寂しいと、信じられない行動に出るものだ。
ただこんな誘いに乗ってくるようだから、彼も東京が寂しかったに違いない。
カリフォルニア州立大学を卒業したITエンジニアの彼は、100万円近い月収をもらっても全く休みのない生活に嫌気がさし、故郷に帰ることになるのだが
それまでの数ヵ月間は、何度も一緒に食事をし、めんどくさい酔っ払いの僕の相手をしてくれた。
今ではFacebookで近況を確認する程度だが、元気にしているようで何よりだ。
ちらし寿司の妖怪
大阪時代に住んでいたマンション(と言っていいのか疑問だけど)の隣の部屋には、いつも夜中にハイヒールの音を響かせながら階段を登ってくる女性が住んでいた。
ある大雨の日の夜中、いつものようにハイヒールの音を響かせながら隣人が帰ってきた。
カンカンカンカンカンカン!!!
いつも以上に激しい足音にびっくりしながら「あ~今日も酔ってるんだろうな」と思っていると
カンカンカンカンカンカンカンズルッベチャドチャ!!!
「ドチャ? あーこけたんやろな。かわいそうに」
と思ってドアを開けると、飲んだ帰りにちらし寿司を大量にもらったのか
そのちらし寿司をひっくり返し
全身ずぶ濡れで、頭からちらし寿司を被ったぐちゃぐちゃの女の人が階段に倒れ込んでいた。
階段に倒れ込んでいるちらし寿司まみれの女性に
「大丈夫ですか?」
と聞くと
「ごめんね~。ちらし寿司食べる~?」
隣人はどうも「ちらし寿司の妖怪」だったみたいだ。
初対面の隣人に対する、申し訳ない気持ちと謎の親切心が相まってすごく親近感が湧き
床に散らばったちらし寿司の片付けを手伝い、「ほな、おやすみ」となるところで妖怪は言った。
「あ、鍵がない!!! さっきの店に忘れた!!」
そう言うなり土砂降りの雨の中を傘もささずに走って行った。
卑しさも汚らしさも剥き出しにして走ってく――
ザ・ブルーハーツの「TRAIN-TRAIN」みたいな女性とそこをきっかけに仲良くなり、彼女が結婚を機に故郷の石川に帰るまで飲み友だちになった。
今でもたまに電話するが
彼女はいつ電話しても酔っ払っている。
というかシラフで会ったことがなかったかもしれない。
それでもわずかな縁を大切にしてくれる人がいるのは嬉しいものだ。
ただ隣人だっただけで仲良くなった人もいれば、逆にめちゃくちゃ拗れたこともある。
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