松竹梅、 お見立て、 火事息子

「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第十八回

五十三席目 お見立て (おみたて) ★★

[ワンポイント]
吉原では、客が格子越しに遊女を眺め、気に入った相手を選ぶ「張見世(はりみせ)」という風習があった。妓夫(ぎゅう)は客に「よろしいのをお見立て願います」と声をかける。この言葉が墓場で思わぬ形でよみがえる。惚れた花魁(おいらん)を一途に思う杢兵衛(もくべえ)と、振り回される喜助(きすけ)の珍道中である。

◆【あらすじ】

 富裕な田舎者の客である杢兵衛が、花魁の喜瀬川(きせがわ)に惚れて通い詰めている。今日も杢兵衛が喜瀬川を部屋に呼んでいる。

 間に入る店の使用人である妓夫の喜助は、喜瀬川を呼びに行く。ところが喜瀬川はこの客が大嫌い。病気だから断るように命じる。これを杢兵衛に伝えると、病院に見舞いに行きたいと言う。もちろん、入院なんてしていないので喜助も困る。

 これを喜瀬川に伝えると、じゃあ今度は死んだことにしろと命じる。ところがこれを聞いた杢兵衛は、泣きながら墓参りに行きたいと言う。

 さらにこれを喜瀬川に伝えると、どこかのお寺に行って、適当な墓を見繕って、喜瀬川の墓ということにして、誤魔化(ごまか)してこいと命じる。

 喜助は仕方なく杢兵衛を案内して、それらしい寺へ行くが……

◆【オチ】

 大量の仏花と線香を持って、杢兵衛を案内しながら適当な墓に連れて行く喜助。ところが、杢兵衛が手を合わせてよく見ると、子供の戒名だとわかる。

 間違えたと、隣の墓に案内する喜助だったが、今度は軍人の墓だった。怒った杢兵衛が、

杢兵衛 「喜助! 喜瀬川の墓は一体どれだ!?」
喜助 「へい。ずらーっと並んでおりますので、よろしいのをお見立て願います」

◆【解説】


 遊廓において、遊女たちは往来に面した店先に並び、格子の内側から姿を見せ、客はそれを見ながら遊女を選んだ。妓夫は「よろしいのをお見立て願います」と客を誘い込んだ。これを「張見世」と言う。

 マクラでこれを説明することもあるが、噺の中に忍ばせておくぐらいで十分意味は伝わるように思う。墓場へ向かう途中に喜助が杢兵衛に「(喜瀬川は死んじゃったから)また別の花魁をお見立て願います」というニュアンスを入れておくのである。

 杢兵衛は、ほかの噺にも登場するが、とにかく田舎者としていつも馬鹿にされている。だけど、これを強調しすぎて馬鹿にしすぎると、途端にウケなくなる。こういう笑いは、少しデリケートになってきている。

 人の出自や特徴を馬鹿にする笑いは人を傷つける笑いで、今は嫌われているかもしれないが、落語の場合はそれを面白くするバイタリティーがあるはずだ。杢兵衛は花魁が病気になったことも、ましてや死んだこともその気になって悲しむ人間なのだ。杢兵衛は可愛いのだ。

 そんな愛すべき男を馬鹿にしすぎた演出をいくつか見ているが、やっぱりウケていない。絶妙な塩梅が大事だ。ウケる『お見立て』は杢兵衛が可愛く演出されている。

 狂言回しである喜助も愛すべきキャラクターで、花魁と客の間で振り回される。『井戸の茶碗』の屑屋の清兵衛と同じだ。この愛すべき杢兵衛と喜助の二人の行く末やいかに……な噺だ。