松竹梅、 お見立て、 火事息子

「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第十八回

五十四席目 火事息子 (かじむすこ) ★★★

[ワンポイント]
江戸の火事場には「町火消し」とは別に、「臥煙(がえん)」と呼ばれる男たちがいた。大名屋敷などの消火を担い、彫り物をした体に法被(はっぴ)一枚という荒々しい姿で、世間から恐れられる存在でもあった。そんな臥煙に、神田の大店の若旦那がなってしまう。ここから、火事が引き合わせる親子の物語が始まる。

◆【あらすじ】

 神田の質屋の大店の若旦那・徳三郎(とくさぶろう)は、大の火事好き。子供の頃からの火事好きが高じて勘当されたあげく、臥煙になってしまう。若旦那はそのまま行方も知れず、数年が経つ。

 ある冬のこと、店の近所で火事がある。番頭も店の者も蔵の目塗りなどで大わらわ。そこへ体中に彫り物をした臥煙の若者が現れて、番頭を手助けし、なんとか火事もおさまった。

 大旦那が臥煙にお礼がしたいと番頭に話すと、さっきの臥煙が勘当した若旦那だとわかる。徳三郎に会いたくない大旦那だが、番頭の説得で、親子が気まずくも嬉しい再会をすることになる。

 大旦那は若旦那を叱るが、母親はとにかく会いたかったと泣きながら喜ぶ。若旦那も詫びをして、しぶしぶ大旦那も許すことにしたが……

◆【オチ】

母親 「この子には、黒羽二重(くろはぶたえ)の紋付に仙台平(せんだいひら)の袴、雪駄(せった)を履かせて、小僧を付けて……」
大旦那 「おいおい、そんな格好でどこへやろうと言うんだい?」

母親 「だって、おじいさん。火事のおかげで会えたんですから、火元に礼にやりましょう」

◆【解説】


 粋なオチの最高峰だと思う。事前に説明もいらないし、聴いてからもじわじわと込み上げてくるものがあり、とてもよいオチだ。

 説明といえば、火消しについてマクラで喋っておく必要がある。「臥煙=アウトロー」という構図があるから、親子が決別しているのだ。火消しは立派なものだと思っていたが、それは町火消しである。

 大名火消しなどに属した臥煙は、町火消しとは毛色が違っていて、町人からは恐れられていたようで、この噺で私もそのことを知った。体中に彫り物をして、法被一枚、白足袋で闊歩(かっぽ)している。そんなならず者のような姿に憧れる人もいたのだ。

 子供は親の思うように育たないものだ。親が敷いたレールをそのまま歩む人もいるだろうが、多くはそうはいかない。勝手に育ち、勝手に夢を持ち、親の意向とは裏腹に育っていく。それでも親は子が可愛いし、子はいつまで経っても子なのだ。そうであってほしい。

 上京した子が久しぶりに実家に帰る。「もっとたまには帰ってきなさいよ」と親は叱りながらも、久しぶりの帰省に、母親が手料理をこれでもかとこしらえ、父親は子にビールを注ぐ。

 「最近はどうだ? ちゃんとやってるのか?」

 そんなどこの家族にもあるような風景が、この落語にはあるのだ。

 再会のきっかけは「火事」だ。親が憎んでやまない火事が息子を呼び戻す。皮肉にも火事のおかげで、家族が再び一つになるのである。そんな火事にお礼をする。母親がオチのセリフを言うのも好きだ。

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(毎月6日頃、配信予定)

●演目一覧(2026年10月時点 / 計54席)

あ行 明烏 愛宕山 あたま山 一分茶番 井戸の茶碗 牛ほめ お菊の皿 お見立て 親子酒
か行 火事息子 片棒 看板のピン 紀州 きゃいのう 金明竹 甲府い 子別れ 権助魚 権兵衛狸
さ行 真田小僧 七段目 芝浜 寿限無 松竹梅 崇徳院 粗忽長屋 そば清 ぞろぞろ
た行 大工調べ たいこ腹 たがや 狸札 短命 茶の湯 壺算 つる 転失気 天狗裁き 道灌 時そば
な行 二番煎じ にらみ返し 抜け雀 ねずみ 寝床 野ざらし
は行 不動坊 棒鱈 堀之内
ま行 まんじゅう怖い みそ豆  百川
や行 四段目 淀五郎
ら行
わ行