NEW

〈書評〉 殺し屋の営業術 (野宮有 著)

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第16回

師匠は爆笑、弟子は迷走

 私の師匠、鶴光の高座を寄席で聴いたことがある人ならば、100パーセント聴いている師匠のツカミ。師匠が高座に上がり、客席を見渡した後の第一声。

 「高齢化社会でんな~」

 一言目からウケる! ウケたら、お客さんは『この人は面白い人なんだ』と安心して笑いやすい雰囲気になる。そして、その後にもう一言。

 「皆さんのことを言うてるわけやないんですよ(笑)」

 高齢だといじったお客さんへのフォローも忘れない。高齢だと揶揄され、内心モヤッとしたかもしれない悩ましいお客さんの気持ちをやんわりとした埋め合わせで見事に晴らし、すべてのお客さんの意識を自分に集中させ、噺へと入っていく。

 ここまでで、10秒足らず! 凄い! 凄いぞ、鶴光! セールスマンなら商談成立間違いなし! 寄席なので「笑談成立」間違いなし! わーい!

 私は実は『ツカミ』が苦手だ。厳密に言うと、その日その日のツカミはできるが、定番のものを見つけられず未だに試行錯誤している。

 ツカミにも色々なパターンがある。客いじり、自虐、名前ボケ……。毎回、いろんなツカミにチャレンジしてきたが、定番化には至らない。

 何度か名前を覚えてもらうために呼び方の説明をしたことがある。

 「茶に光で、さこうです。ちゃこうと呼ばれるのでチャコちゃんと呼んでください」
 「では、みんなで呼んでみましょう! せーの、チャコちゃーん! 気持ちいい! ありがとうございます!」

 お客さんに声を出してもらうというのも、盛り上げるための1つの手法ではあるが、自分には合わないし、なんか恥ずかしくて、一度きりでやめてしまった。