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〈書評〉 殺し屋の営業術 (野宮有 著)

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第16回

〈書評〉 殺し屋の営業術 (野宮有 著)

凄腕営業マンが命がけで売上2億円を目指す、異色の犯罪ミステリー小説

笑福亭 茶光

執筆者

笑福亭 茶光

執筆者プロフィール

冒頭から心を奪う驚異のツカミ

 清々しいほど善人が一人も出てこない!――

 第71回 江戸川乱歩賞を受賞された、野宮有さんの『殺し屋の営業術』。

 営業マンの「鳥井一樹(とりいかずき)」は、営業会社を転々としながらも行く先々でトップに上り詰める凄腕の人物。訪問販売の厳しいノルマをクリアし続ける鳥井の姿は、初めこそ同僚たちから羨望の目を向けられるが、ストイック過ぎるその異様さから、やがて腫れ物に触るように距離を取られるようになる。

 鳥井がノルマの厳しい営業の仕事に固執する理由は、何をしても満たされない心の空虚感を埋めるため。

 そんなある日、会社のホームページに届いた1件の問い合わせメール『夜11時以降に面談希望』。これを受け、約束の時間に客の自宅へ向かうと、そこには……。

 心理学を駆使した数々の営業テクニックを用いて客を手のひらの上で操る鳥井の退屈な日々が、最悪の1日の訪れとともに、初めて心が満たされる喜びを知る日々へと変化していく。

 営業マンが主人公のこの小説。セールストークは『ツカミが大事』という言葉の通り、この小説もつかみが凄い。そして、つかまれたと思ったら、ラストまで怒涛の勢いで読まされてしまう。

 人に話を聞いてもらうときに、『ツカミ』はとても大事だ。まずは相手の興味を引いて、自分の話に耳を傾けてもらう状態を作らなければならない。

 元は、演芸やお笑いの世界で使われ始めた言葉らしい。実際、今でも使われている。そして、売れている芸人ほど『ツカミ』が上手いし、早い。なおかつ、定番化されたギャグのようになっていたりする。