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〈書評〉 殺し屋の営業術 (野宮有 著)

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第16回

心の穴を抱えた男たちの物語

 その後、『チャコ』という言葉が地域によっては、卑猥な表現になるというのを聞き、戦慄した。

 「みんなで呼んでみましょう、チャコちゃーん! うーん気持ちいい!!」

 ド変態の落語家だ。この時代、炎上して訴えられてもおかしくない。

 「お客にあんなこと言わせるなんて、許せないわ! 抗議しましょう!」
 「あの変態! 鶴光の弟子だって!」
 「やっぱりねー!!」

 危うく師匠の顔にも泥を塗るところだった。尊敬する師匠に、ご迷惑をかけるわけにはいかない。

 しかし、同時に心のどこかで、師匠は実は意味を知った上で『さこう』という名前の裏にその呼び名を隠したんじゃないか?という考えも浮かんでしまう。

 だって……鶴光やもん。

 心理学を使ったトークの駆け引き、無感情な鳥井の極限状態からの心境の変化、まさに読む手が止まらない!

 タイトルが『殺し屋の営業術』なので、なかなかバイオレンスな展開になっていくが、主人公のキャラクターの異常性にスポットが当たっているので、とても漫画的で重くなり過ぎず楽しめる。

 そして、冒頭でも書いた通り、誰一人として善人が出てこない!

 例えば、主人公が悪党の物語であっても、読み進めると「実は悪くなったのは過去にこんなことが……」「悪の手段をとっているけど、実は本当の目的が……」と徐々に主人公に肩入れしたくなってしまうことがある。これはこれで確かに面白い。

 そして、物語を豊かなものにするにはそういう設定がないといけない、とついつい思ってしまう。

 しかし、この物語の登場人物には、肩入れしたくなるような背景を持つ人物が一人も出てこない。ちゃんとみんな性格が悪い。これが読み心地の軽さにも繋がっていて、とても面白い。

 鳥井は、心の穴を埋められる何かを探していた。

 私の心にもポッカリと空いた穴がある。高座の上でしか埋めることができない穴だ。お客さんを笑わせる満足感でしか、埋めることができない。

 いつか私は、笑いのヒットマンとして、百発百中でお客さんのハートを撃ち抜くのが目標だ。

 その前にお客さんの冷たい視線で撃ち殺されないように、変なツカミをしないよう気をつけよう。

(文中、敬称略)

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  • 書名 : 殺し屋の営業術
  • 著者 : 野宮有
  • 出版社 : 講談社
  • 書店発売日 : 2025年8月
  • ISBN :9784065403303
  • 判型・ページ数 : 四六判・296ページ
  • 定価 : 2,145円(本体1,950円+税)

(毎月1日頃、配信予定)

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