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ちりとてちん、 富久、 百年目
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第十九回
- 落語
『百年目』の番頭に扮する、はな平師匠(画:おかめ家ゆうこ)
オチがもっと面白くなる落語入門!
落語といえば、やっぱり最後の「オチ」。ひと口にオチと申しましても、そこには笑っていただくための、いろんな仕掛けや工夫が隠れております。この連載では、そんなオチを〈演じる側の視点〉から、「あらすじ」とともにやさしく解説。さらに、その仕掛けを★〜★★★の三段階で分類いたします(★の基準は、第一回をご参照ください)。
第十九回は、ちりとてちん、富久、百年目の三席。それぞれ、いったいどんな仕掛けで最後の笑いにつながるのか。初心者の方でも楽しめる、オチがもっと面白くなる落語入門の幕開きでございます。
五十五席目 ちりとてちん ★
[ワンポイント]
落語『ちりとてちん』の主役は、腐った豆腐……だけではない。何でも褒める金さんと、何でもけなす六さん。この二人の存在が噺を動かしていく。単純な滑稽噺に見えて、実は人物の演じ分けが難しい、噺家の腕の見せどころなのだ。
◆【あらすじ】
旦那が碁の会をやろうと、料理をあつらえて皆をもてなそうとしたが、会が中止になり、近所に住む金さんに余った料理を食べてもらうことにする。
灘(なだ)の生一本(きいっぽん)、鯛の刺身、鰻の蒲焼などを美味しく食べる金さん。とにかくお世辞のうまい男で、旦那も気持ちよくなる。自分も一緒に酒を呑もうと、女中のお清に、酒の肴として豆腐を持ってこさせるが、豆腐はひと月前から置いてあって腐っている。
近所に六さんという、金さんとは正反対の嫌味で知ったかぶりの男が住んでいる。旦那は、この男を懲らしめるため、腐った豆腐に唐辛子の粉を混ぜ合わせて瓶詰めにして、食べさせることを思いつく。
六さんを呼び、金さんに出した酒や肴を食べてもらうが、相変わらず嫌味な六さんは、何を食べても不満足そう。旦那は「六さんは食通だから、なかなかお前さんの口に合うものが出せなくて済まないねえ。あっ、そうだ。お前さんのような食通の口に合うものがあるよ」と出したのが、あの唐辛子を混ぜた腐った豆腐。
旦那は、この代物に「ちりとてちん」と名付け、台湾名物だと言うと、六さんは知ったかぶりなので、食べたことがあるという。ところが瓶の蓋を取ると、強烈な臭い……
◆【オチ】
旦那は、躊躇する六さんを見て、
旦那 「六さんは食べ方、知らないんじゃないの?」
そう言われて、意地っぱりな六さんは、怒って食べ始める。瓶から出し、皿に載せて、ひと息で口に放り込む。そして七転八倒しながら、なんとかこれを呑み込んで、
六さん 「あー美味かった!」
旦那 「美味かった? そら一体、どんな味がするんだい?」
六さん 「ちょうど豆腐の腐ったような味がします」
◆【解説】
ほぼ同じ内容の噺に『酢豆腐』があり、元々はこの江戸落語が上方に渡り、『ちりとてちん』になったとされている。現在では、東京でもこの『ちりとてちん』がかかることのほうが圧倒的に多い。
食通を気取った男が味の感想をそのまま「豆腐が腐った」と表現してしまうのが可笑しい。それ以上でもそれ以下でもなく、まさに表現のしようがなかったのであろう。言い方も最後まで食通を気取って、セリフを放つ。
盛り上がりは、最後の腐った豆腐を食べるところにあるが、それ以外の部分もかなり重要な噺である。特に前半のお世辞のうまい男が難しい。何を食べさせても美味しいと言い、「初めて」だと強調して、これでもかと感心するこの男は、あくまでお世辞のうまい男。幇間(ほうかん)ではないところが面白いし、難しい。対して、後半に出てくる男は嫌味たっぷり。何を食べさせても満足しない。この対比を面白く見せるのがこの噺の本当の眼目(がんもく)である。
今では腐った食べ物を見ること自体が少ないが、冷蔵庫がない時代はものが腐るという状況はよくあったのだろう。一歩間違えると、とても後味の悪い噺になってしまう。単に腐ったものを食べさせるイジメのように見えてしまったら、笑えなくなってしまうのだ。リアルさとコミカルさをいい塩梅で見せなければならない。