〈書評〉 笑辞典 落語の根多 (宇井無愁 著)
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第6回
- 落語
- Books
杉江 松恋
2025/10/29
落語の過去と現在を繋ぐ「笑いのアンソロジー」
座右の書と言ってもいいのだが、全部は読み切っていないので恥ずかしい。
宇井無愁(ういむしゅう)『笑辞典 落語の根多』(角川文庫)は、上方落語を中心に500以上の噺を集めた辞典である。あらすじを紹介するだけではなく、落語化された原話がはっきりしているものについてはそれに言及、参照した文献についても項目ごとに記載されているので、リファレンスとしても信頼できる。
元版は1970年(昭和45年)に刊行された『落語の原話』(角川書店)である。当時はまだ知名度が低かった上方落語を紹介・解説する意図で書かれたが、1976年(昭和51年)に文庫化するにあたり、近世から現代にいたる日本人の「笑いのアンソロジー」とするために改稿が行われた。現代の落語を研究するだけではなく源流を辿って、祖先が何を笑ってきたかを知り得るようにする、というのが文庫版の狙いであると序文に書かれている。
思いつくままにページを開けば、たとえば上方落語の「桜の宮」、東京落語の「花見の仇討」は「文政三年(注:1820年)板滝亭鯉丈作『花暦八笑人』二篇下の落語化」とある。
また東京落語で言うところの「景清」については「この咄は謡曲『景清』『大仏供養』近松『出世景清』操りの『檀浦兜軍記』『娘景清八島日記』などに使われた景清伝説をふまえてできているので、それを知っておく必要がある」と断った上で、「正徳二年(注:1712年)江戸板『新話笑眉』巻一ノ十(盲人の七日参り)」「享保年中(注:1716~1736年)京都板『軽口大矢数』(祇園景清)」「安永二年(注:1773年)江戸板『楽牽頭』後編『座笑産』(眼の玉)」の3点を挙げ、「現行話は以上三つの原話を混合したものであろう。初代笑福亭吾竹作」としている。
原話には異説もあるが、初代吾竹が作ったという点はおおむね一致しているようだ。吾竹は生没年不詳だが京都の人で、文化から天保、つまり19世紀初頭に活躍した。
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