らあめんたべたい
「ずいひつかつどお」 第2回
- 落語
立川 談寛
2025/07/29
深夜2時、らく兵兄と銀座を走り回る
醤油ラーメンに目覚めたのは、東京に住んでからのことである。
散々、味噌ラーメン味噌ラーメンと味噌のプロパガンダをしていたが、ほとんど味噌を頼むことはない。醤油8:味噌1:塩1くらいの割合で醤油ラーメンを食べる頻度が圧倒的に多い。それほど東京の醤油ラーメンは美味いし、何より種類も豊富なのだ。
お腹をいっぱいにすると、何もできなくなる。正確には、何もしたくなくなってしまう。人間は食べるために働くのであり、満腹になると脳の働きが鈍くなるのだそうだ。なので落語を演る前はあまり食べないようにしている。
たまに自分の落語会に後輩が遊びに来てくれる時もあるが、そういう場合は終演後にラーメン屋へ連れて行ったりする。常識的な噺家は居酒屋へ連れていき、くだを巻きながら都々逸でも唄うものだが、常識的な噺家ではないので仕方がない。その辺の居酒屋で食べるものより、ラーメン屋の方が好きなのだ。
昔、師匠の談志が銀座の「美弥」という行きつけのスナックバーでよく打ち上げをしていた。近くの中華屋さんで餃子とカタ焼きそばを頼み、いつも美味しそうに食べていたのを覚えている。ある日の打ち上げの時、その中華屋さんが店を閉めていた。時計を見ると夜中の2時、店が閉まるのは当然だ。
そのさなか、談志は「前座、餃子が食べたいから買ってこい」と仰ったのだ。日曜の夜、まして銀座、開いている町中華などあろうはずもない。当時、前座だった兄弟子のらく兵とともに、夜中に銀座を走り回ったがやはり店はない。
二人でどうしようかと思案した結果、居酒屋のチェーン店を見つけた。すぐに中に入りバイトに話をしたが、なかなかまとまらない。業を煮やしたらく兵兄が私に「ここで待ってろ」と言い放ち、一人店の奥に入り交渉を締結させ、餃子のお持ち帰りに成功した。きっとバイトの靴を舐めたり、カッポレを踊ったりしたのだろう。
餃子を持ち帰ると大変ご満悦で、らく兵兄と喜びを分かち合ったが、次の日、談志のブログにこう書いてあった。
「居酒屋の餃子はまずい」
ラーメンの日じゃなくても、ラーメンは食べる。ラーメンは日本人に愛されているし、ラーメンの方もきっと日本人を愛している。文章を書きながら無性にラーメンが食べたくなってきた。
皮肉なことに、この文章を書いている現在も夜中の2時。私の近くに「ラーメン買ってこい」と言える前座はいないし、もしいても「あのうすみませんが前座さん、ラーメン買ってきてくれませんか」と敬語になってしまうことだろう。諦めてカップラーメンで我慢しよう。
あ、カップラーメンもない。
くうううう。
(以上、敬称略)

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(毎月28日頃、掲載予定)
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