栗と私
「マクラになるかも知れない話」 第二回
- 落語
三遊亭 萬都
2025/09/24
あいつとの再会
時がたって、僕は東京の大学へ進学した。
都会に出たからと言って、特に垢抜けることもなく、しかし友人も出来てそれなりに楽しく大学生活を送っていたとき、渋谷に遊びに行こうと誘われた。
あまり人混みが得意ではなかったので、どうしたものかと思ったが、まあ有名な渋谷とやらをいっぺん見てみるか、と観光気分で出かけていった。
渋谷は凄い。
今でも渋谷に行くたびに思う。渋谷は凄い。何がと言われると、これが困るのだが、まず人の多さが生半可ではない。そしてその人の多さに慣れてもなお、街のエネルギーのようなものが大きくてギラギラしているような気がして気後れする。
そんな渋谷にはじめて立ったときはもう圧倒されて、友人が来るまで「これが渋谷かあ」と、呆けたように巨大な街を眺めていた。
そのときだった。僕は信じられない看板を見つけた。
「天津甘栗」
ご存じの通り、渋谷のスクランブル交差点の一角には、天津甘栗の店がある。あの、渋谷の、スクランブル交差点の一角にだ。天津甘栗の店があるのだ。しかもなんか、ずーーーーっとあるらしいのだ。
「あいつの……実家だ!!」
渋谷に実家があるなんて! そりゃモテるはずだ。シティボーイだもの。シティボーイの中のシティボーイだもの。
あいつは、それでも気取らずに、僕のような奴とも気さくに付き合ってくれていたのか。普通なら「スクランブルの生まれよ」とか言って気取っちゃうだろうに。それもせずに、素朴な味を醸してくれていたのだ。
でもやっぱり隠しきれないスター性があいつをどんどん新しいステージに押し上げていったのだ。だって実家が渋谷のスクランブルにあるのだもの。そりゃスターになる。ならいでか。
遠くに行ってしまったような気持ち? ばか言うな。恥ずかしい奴め。もともと僕なんかとは住む世界が違ったのだ。
青天の霹靂。大きな衝撃を受けた僕は、心から思った。
「びっくり」
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