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幸せになりたい

「まだ名人になりたい」 第7回

幸せになりたい

画:柳家さん花

柳家 さん花

執筆者

柳家 さん花

執筆者プロフィール

私の味方

 長雨のあとの秋は、過ごしやすいですね。

 秋晴れの中、散歩をしていると、都会にいるのに森林浴をしているような心持ちになります。十五夜の月明かりは、ガードレールをススキの茂みに変えてくれる。

 私は喋る商売のせいか、喉を痛めることがよくあります。過ごしやすいからといって窓を開けたまま寝ると、すぐ声が出なくなります。お日様は見たいが、雨の日の方が喉の調子がいいです。

 そんな繊細な私の喉の味方は“鼻毛”です。たまに鼻毛を処理すると、喉の調子が悪くなります。鼻毛が咽頭周辺の湿度を保ち、ウイルスの侵入を防いでいるのだと思います。ですから、できるだけ生えてほしい。

 大事な商売道具の喉を守ってくれる鼻毛には、ひとかたならない愛着があります。自分で鼻毛が出ているのに気づいたり、他人からそれを指摘されてもなんとも思わないどころか、ちょっと得意げです。

 ですが鼻毛を見せつけられてる側は、気まずかったり恥ずかしかったりするらしいので、泣く泣く剃っています。私ほど鼻毛を剃ったあと、憂鬱になる人はいないでしょう。

 私はネタおろしで追い込まれると、誰彼かまわずに不機嫌をまき散らすのですが、ネタおろしの会で高座と客席が近いと、私の唯一の味方の鼻毛を剃らなければならない。大変な騒ぎです。この時ほど、自分は落語家に向いていないと思うことはありません。