〈書評〉 古今東西落語家事典 / 東都噺家系図
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第5回
- 落語
- Books
杉江 松恋
2025/09/29
落語界の不思議を紐解く、名著二冊
三遊亭鯛好が三代目三遊亭百生になる。
話を始めて聞いたとき、その手があったか、と感心した。
先代の二代目百生は、1964年(昭和39年)に亡くなっていて、1968年(昭和43年)生まれの私はもちろん高座に間に合っていない。それでも名前を聞くとなんとなく懐かしい気持ちになるのは、こどもの頃に音源を聞いていて声に親しみがあるからだ。東京の落語協会に属し、六代目三遊亭圓生門下なのになぜか大阪弁という芸人で、違和感を覚えつつも、当時はまだ珍しい上方落語の音源を探してよく聴いた。
こういう明治・大正・昭和の不思議な芸人について調べるときは、側に置いておきたい基本図書が二つある。諸芸懇話会・大阪芸能懇話会編『古今東西落語家事典』(平凡社)と、橘左近『東都噺家系図』(筑摩書房)である。二冊は版型と函入りの装丁である点が同じで、すぐ手に取れるところにいつも置いてある。あの落語家は、あの名跡はどういうことになっていたのだっけ、と調べるときに役立つのだ。
大阪に活動拠点を移すことを先日発表した柳家平和も、まだ二代目かゑるで、今の名前を襲う前に『古今東西落語家事典』に当たった、とYouTubeに配信した動画で言っていた記憶がある。
初代平和は項目を立てられてはいないが、目次に記載がある。1874年(明治7年)生まれの鈴木貞吉が義太夫語りから二代目金馬門下となって金弥、幾度かの改名を経て1927年(昭和2年)に柳家三語楼門下に移って八語楼、その後は1931年(昭和6年)頃まで顔付に見えるが、1933年(昭和8年)頃から平和を名乗っており、以降は不明とのことである。
項目を立てられていなくてもこのくらい情報量があるのだ。
初代百生、波瀾万丈の芸人人生
百生の話だった。こちらは項目が立てられている。
初代は小河真之助で、1895年(明治28年)生まれ、1964年(昭和39年)没。大阪市南区の生まれで16歳のときに初代桂文我に入門して我蝶(のちに我朝)、ここまではごく普通の上方芸人の経歴なのだが、なぜか我蝶は東京に惹かれる。初めに上京したときには、後に八代目桂文治となる七代目翁家さん馬に入門してさん助を名乗り、二年後には三代目三遊亭圓窓に弟子入りして桃多楼團語を名乗ったが、愛妻・お蝶と死別という悲劇に見舞われた。
ここからが波瀾万丈でおもしろいので、項目執筆者の都家歌六の文章を抜粋して引用する。
――その失意からのがれるため中国の青島に渡り、幇間、さらにカフェーガーデンを経営したがこれが大繁盛。そして戦争が激しくなるや、ただちに水商売をやめて洋服問屋に転向とは、実に抜け目のない商いのうまさではあった。
芸人で他の商売に転じた例は少なくないと思うが、士族の商法ならぬなんとやらで、成功した人はどれくらいあったのだろうか。例外がこの團語だったわけである。
しかし敗戦によってすべてを失い、故郷で桂梅團治を名乗って復帰するも、当時の大阪は四天王によって復興される前のどん底時代である。見切りをつけて東京で事業家に戻ろうとするが、運に見放されて失敗した。その雌伏期の1952年(昭和27年)、古くからのなじみであった六代目圓生の門下に入り、1954年(昭和29年)に初代三遊亭百生を襲名するに至るわけである。
いま読まれています!
「講談最前線」 第8回
2025年9月の最前線 【後編】 (宝井小琴の二ツ目昇進、神田鯉花の結婚/講談入門② ~入門書編1)
~講談界の慶事と、初心者におススメの一冊
瀧口 雅仁
2025/09/14
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第7回
百花繚乱! 10人組の落語家ユニット「芸協カデンツァ」がやって来た【前編】
~世代を超えた多種多様の香味全開のおもしろユニット!
服部 拓也
2025/11/20
「べべログ」 第3回
グリル梵の「ヘレカツカレー煮込み」(大阪市浪速区)
~20年越しの味と笑い。蘇るあの日の記憶
笑福亭 べ瓶
2025/11/21
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第4回
あふれる情熱と笑顔 神田鯉花(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/06/27
「エッセイ的な何か」 第6回
11月7日は鍋の日 →高級食材を食いまくった男の疑問
~なぜ高額なアンコウ鍋が食べ放題だったんだろう?
三笑亭 夢丸
2025/11/19
「かけはしのしゅんのはなし」 第6回
大会後のご褒美は、魅惑のナポレターナとプロシュート!
~11月20日は、ピザに恋する日!
春風亭 かけ橋
2025/11/18
「すずめのさえずり」 第一回
エッセイについて
~待望の連載がスタート!
古今亭 志ん雀
2025/07/26
「ラルテの、てんてこ舞い」 第1回
悩ましい食の話と、桂雀々エピソード1
~桂雀々師匠と二羽のカラスの物語
ラルテ
2025/06/29
月刊「シン・道楽亭コラム」 第3回
小さな演芸場、大きな縁 ~シン・道楽亭、再始動の一年
~還暦を過ぎて見つけた「宝物」
シン・道楽亭
2025/07/10
「ラルテの、てんてこ舞い」 第5回
雀々が残した大提灯
~今もたくさんの人に愛される桂雀々師匠
ラルテ
2025/11/10
「講談最前線」 第8回
2025年9月の最前線 【後編】 (宝井小琴の二ツ目昇進、神田鯉花の結婚/講談入門② ~入門書編1)
~講談界の慶事と、初心者におススメの一冊
瀧口 雅仁
2025/09/14
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第7回
百花繚乱! 10人組の落語家ユニット「芸協カデンツァ」がやって来た【前編】
~世代を超えた多種多様の香味全開のおもしろユニット!
服部 拓也
2025/11/20
「べべログ」 第3回
グリル梵の「ヘレカツカレー煮込み」(大阪市浪速区)
~20年越しの味と笑い。蘇るあの日の記憶
笑福亭 べ瓶
2025/11/21
「かけはしのしゅんのはなし」 第6回
大会後のご褒美は、魅惑のナポレターナとプロシュート!
~11月20日は、ピザに恋する日!
春風亭 かけ橋
2025/11/18
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第4回
あふれる情熱と笑顔 神田鯉花(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/06/27
「エッセイ的な何か」 第6回
11月7日は鍋の日 →高級食材を食いまくった男の疑問
~なぜ高額なアンコウ鍋が食べ放題だったんだろう?
三笑亭 夢丸
2025/11/19
「ラルテの、てんてこ舞い」 第5回
雀々が残した大提灯
~今もたくさんの人に愛される桂雀々師匠
ラルテ
2025/11/10
「マクラになるかも知れない話」 第三回
となりは鼻うがいをする人ぞ
~ねぇママ、パパは何をしているの?
三遊亭 萬都
2025/10/22
「講談最前線」 第10回
2025年11月の最前線 (聴講記:神田松麻呂・神田鯉花 連続読み、神田春陽の会)
~リレー講談「寛永宮本武蔵伝」と、緩急自在の「大岡政談」
瀧口 雅仁
2025/11/17
「ラルテの、てんてこ舞い」 第1回
悩ましい食の話と、桂雀々エピソード1
~桂雀々師匠と二羽のカラスの物語
ラルテ
2025/06/29
「かけはしのしゅんのはなし」 第6回
大会後のご褒美は、魅惑のナポレターナとプロシュート!
~11月20日は、ピザに恋する日!
春風亭 かけ橋
2025/11/18
「講談最前線」 第10回
2025年11月の最前線 (聴講記:神田松麻呂・神田鯉花 連続読み、神田春陽の会)
~リレー講談「寛永宮本武蔵伝」と、緩急自在の「大岡政談」
瀧口 雅仁
2025/11/17
「講談最前線」 第8回
2025年9月の最前線 【後編】 (宝井小琴の二ツ目昇進、神田鯉花の結婚/講談入門② ~入門書編1)
~講談界の慶事と、初心者におススメの一冊
瀧口 雅仁
2025/09/14
「くだらな観音菩薩」 第7回
目青不動
~人の縁に感謝。ありがとうございます
林家 きく麿
2025/11/16
「浪曲案内 連続読み」 第7回
レッサーパンダの風太くんは、パン間国宝!
~日本中が沸いた風太くんの生き様が浪曲に!
東家 一太郎
2025/11/15
「エッセイ的な何か」 第6回
11月7日は鍋の日 →高級食材を食いまくった男の疑問
~なぜ高額なアンコウ鍋が食べ放題だったんだろう?
三笑亭 夢丸
2025/11/19
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第7回
百花繚乱! 10人組の落語家ユニット「芸協カデンツァ」がやって来た【前編】
~世代を超えた多種多様の香味全開のおもしろユニット!
服部 拓也
2025/11/20
月刊「シン・道楽亭コラム」 第7回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト
~すべては菊太楼師匠との駄話、駄飲みから始まった
シン・道楽亭
2025/11/13
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第7回
〈書評〉 若手だった師匠たち 年間1000席の寄席通いノートから(寺脇研 著)
~「忘れ去られるはずの瞬間」が浮かび上がる貴重な論集
杉江 松恋
2025/11/19
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
月刊「シン・道楽亭コラム」 第7回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト
~すべては菊太楼師匠との駄話、駄飲みから始まった
シン・道楽亭
2025/11/13
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第7回
ビールの秋、日本酒の秋、わたしの美が深まる秋
~浪曲師の日記が、ここまで笑えていいんですか!
東家 千春
2025/11/03
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第4回
上方落語大会議「なんぼでなんぼ」
~苛酷な仕事、ギャラなんぼやったら行く?
桂 三四郎
2025/10/24
「マクラになるかも知れない話」 第三回
となりは鼻うがいをする人ぞ
~ねぇママ、パパは何をしているの?
三遊亭 萬都
2025/10/22
「かけはしのしゅんのはなし」 第6回
大会後のご褒美は、魅惑のナポレターナとプロシュート!
~11月20日は、ピザに恋する日!
春風亭 かけ橋
2025/11/18
入船亭扇太の「お恐れながら申し上げます」 第3回
番頭色々
~「本当にやって良かった」 に感謝を込めて
入船亭 扇太
2025/11/11
「講談最前線」 第8回
2025年9月の最前線 【後編】 (宝井小琴の二ツ目昇進、神田鯉花の結婚/講談入門② ~入門書編1)
~講談界の慶事と、初心者におススメの一冊
瀧口 雅仁
2025/09/14
古今亭佑輔とメタバースの世界 第5回
現実世界との相互作用
~VRで広がる落語の可能性
古今亭 佑輔
2025/11/05
「ラルテの、てんてこ舞い」 第5回
雀々が残した大提灯
~今もたくさんの人に愛される桂雀々師匠
ラルテ
2025/11/10
編集部のオススメ
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第4回
上方落語大会議「なんぼでなんぼ」
~苛酷な仕事、ギャラなんぼやったら行く?
桂 三四郎
2025/10/24
「マクラになるかも知れない話」 第三回
となりは鼻うがいをする人ぞ
~ねぇママ、パパは何をしているの?
三遊亭 萬都
2025/10/22
「エッセイ的な何か」 第5回
10/9は、アメリカンドッグの日 →兄さんに呼び出された男の困惑
~その男は『ドッグ』と呼ばれた!
三笑亭 夢丸
2025/10/21
「かけはしのしゅんのはなし」 第5回
スポーツの秋! 落語家がサーフパンツで舞台に立つ日
~筋肉は裏切らないが、笑いはたまに裏切る?
春風亭 かけ橋
2025/10/18
「くだらな観音菩薩」 第6回
鑑真和上
~そう、諦めちゃあいけないんだ
林家 きく麿
2025/10/16
「令和らくご改造計画」
第三話 「内輪ノリ」
~またも前座が楽屋を混乱に陥れる!
三遊亭 ごはんつぶ
2025/10/12
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第6回
ビール飲み干し、そしてわたしに秋が来る
~時にヒリヒリ、時に爆笑の舞台裏!
東家 千春
2025/10/03