その親子丼に用がある
シリーズ「思い出の味」 第3回
- 落語
古今亭 菊志ん
2025/06/11
師匠と一緒に食べた親子丼
師匠宅でいただいたものでおいしかったのは、近所のお店で師匠が買ってくる豆大福、おかみさんのお手製カレー、慶事に出前をとった赤飯など。
あ、私が二ツ目になる時には、鯛の尾頭付きを出していただきました。「二ツ目の祝いであんな豪華なのは見たことない」とはある方の談。ありがたい話です(実はちょっと自慢話)。
そして、そのほかにご馳走していただいたもので印象に残ってるのは、鈴本演芸場の裏のお蕎麦屋さんの更科、国立演芸場前の中華屋とかかなあ。
鈴本の裏の更科は、今はなくなってしまいましたが、水を出したり、注文を取ったりするのはご主人で、結構なお年嵩でしたね。厨房に、おかみさんと一人の職人さん。間口の狭い小さなお店でしたが、ここの親子丼は本当においしかった!
お蕎麦屋さんのカレーは、出汁を使ってるからおいしいって話はよく聞きます。子供だって知ってます。おそらく、上野公園の野良猫でさえ知ってるくらいです。その親子丼バージョンなんでしょうか。
玉子と鶏が絶妙に甘くて、たぶん嫌いって人いません。かっこむ手が止まらないんです。大の大人でも、ほっぺにご飯粒をくっつけて漫画のように食べてしまう逸品でしたね。
師匠は、もり蕎麦と親子丼の二品を頼んでました。私も若いし、同様に。けど、何年かすると師匠は平らげられなくなって、「お前、いけるか?」って半分ぐらい回ってくるんです。小食の私は、お腹パンパンになることが数回。
そこで、師匠の残りが回ってくるのを計算して、自分の注文は一品だけにしました。すると師匠は「二つ頼まなくていいのか? 遠慮しなくていいんだよ?」と。私は「今日は、ちょっとこのくらいにしときます」とか何とか、適当なことを言いつつ、心の中で「師匠が残すからです!」と苦笑いしてました。わはは。
いやあ、書いてたら、また食べたくなってきたなあ。閉店しちゃったってのが、また何とも切ないし、「思い出の味」となると、更科の親子丼が浮かびますねえ。
うちの師匠には腰の低いご主人でしたが、前座や若手だけで行くと、ほんの少しそっけないんですよね。若造の私は、「ああ、そんなもんなんだなあ」と思いました。
そんなことまで含めて、良い思い出なのであります。
(了)
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