2025年11月の最前線 (聴講記:神田松麻呂・神田鯉花 連続読み、神田春陽の会)
「講談最前線」 第11回
- 講談
瀧口 雅仁
2025/11/17
聴講記~「講談まぐろや亭 神田春陽の会」(熱田場外市場)
向じま墨亭では『徳川天一坊』の連続物に繰り返し挑み、講談協会の定席では『天保水滸伝』や『清水次郎長伝』等を連続で読むなど、積極的な高座を見せる神田春陽の名古屋での会に初めて足を運んだ。
名古屋の中心地からはやや外れるが、日比野の魚市場内の会議場で10月3日~4日の2日間、独演会を開いた。主催は、同市場内に店舗を持つ「まぐろや」。名古屋では「立川こしらの会」を開催したり、最近では「旭堂鱗林・田辺いちかの会」を東京や名古屋で開催している。その本業は、文字通りマグロ。しかも本マグロにこだわりを持ち、昼間はやはり市場の一階にある「喫茶M改めマグロのM」という店で、安価で定食を味わうことができる。これが実にうまい。
その「講談まぐろや亭 神田春陽の会」(熱田場外市場)の初日を覗いてみた。この日の高座は、中入りを挟んで、「大岡政談」の中から『小西屋騒動』をたっぷりと。近年では八代目一龍斎貞山が演じていたが、やり手のない演目の一つだ。
日本橋本町三丁目の薬種問屋・小西屋の長三郎は、堅物で学問ばかりの真面目一辺倒。父の長左衛門はそれを心配して、長三郎に花見へ行くように勧める。長三郎が向かった先は、明暦の大火で知られる本郷丸山本妙寺。ところがその途中で腹痛を起こし、駆け込んだ厠(かわや)のある長屋で、千代という娘の姿を見掛けて一目惚れ。小西屋の主人は、恋の病に落ちた息子を助けるために二人を一緒にさせようとするが、そこに邪魔が入り、騒動が起こる……。
前半は、落語で言えば『明烏』や『崇徳院』に似ているが、なかなかハッピーエンドとならないのが講談、しかも長編講談の面白いところ。

春陽の高座の特長は、どんな話でも聴き手を飽きさせない点にある。マクラでは自身を取り巻く現状報告で聴き手を引き込み、本題に入れば地の展開でストーリーに注釈を与えるが如く、講談特有の硬い口調で進め、登場人物の会話となれば、その言動に滑稽さと武骨さの両方を巧みに与え、物語に厚みを持たせる。
今回の『小西屋騒動』の前半では、突然の腹痛に、普段は冷静沈着な長三郎がパニックを起こす様子を滑稽味たっぷりに描きつつも、「すみませんね、大騒ぎして、これ『大岡政談』なんです」なんて断りを入れながら、その後の流れを期待させたり、後半では悪事を企む登場人物のセリフにドスをきかせ、読みも淡々と緩急自在に。
この日のマクラについては、ここではとても書けないが(笑)、本題で登場する小道具(?)との関係を持たせた話で笑いをつなぎ、聴き手をほぐしながら本題へと進んでいく。若旦那の生真面目さと恋に翻弄される様、千代の父親であり、融通のきかない浪人の一途な生き方、どこかやることに間が抜けているが、悪事にせっせと励む千代に惚れる敵役等々、物語の展開とともに次々に入れ替わっていく人物描写を鮮やかさに見せた。
常々書き示していることであるが、講談の醍醐味の一つである連続物といったものを大切に読み続けている春陽だからこその一席であったことは、間違いない。『小西屋騒動』もまた、機会があれば改めて聴きたい、春陽ならではの一席に仕上がった。
なお、2日目の10月4日は「清水次郎長伝」から『お民の度胸~石松閻魔堂』と『観音霊験譚~御神酒徳利』を。名古屋で聴く次郎長と、旅物語でもある「御神酒徳利」。後者は落語からの移しであるが、今回の『小西屋騒動』でも見せた、硬軟自在な神田春陽がどう読んだのかが気になって仕方がない。
〈こぼればなし〉
この日の楽屋には、名古屋を中心に活躍を見せている旭堂鱗林さんと旭堂左燕さんが。春陽先生の高座を後方で真剣な目で追っている左燕さんの姿もまた印象的だった。ちなみに「喫茶M改めマグロのM」の「幸せマグロ定食」1,500円はマグロの違いを楽しむことができるおススメのメニュー。講談や落語とともに味わうのもいい。

(2025年10月3日 熱田場外市場)
いま読まれています!
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
シリーズ「思い出の味」 第10回
松鶴、鶴光、羽光、羽太郎の四世代の飲食
~気をつかう師匠との食事
笑福亭 羽光
2025/08/04
シリーズ「思い出の味」 第11回
食べ物が詰まった、師匠桂三金の思い出と棺桶
~焼肉は落語
桂 笑金
2025/08/17
シリーズ「思い出の味」 第24回
母のカレーと鯨汁、時々“かきのもと”
~食べ物の記憶には、不思議と人の面影が宿る
春風亭 鯉づむ
2026/05/27
シリーズ「思い出の味」 第1回
21900のいただきます
~師匠との食卓
三遊亭 司
2025/05/13
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第12回
突撃リポート! 落語芸術協会・真打昇進襲名披露パーティー
~真打昇進披露パーティー体験リポート③
服部 拓也
2026/05/28
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「すずめのさえずり」 第十一回
宇宙の前座
~落語家が綴る、スターウォーズにおける師弟制度の妙なリアリティ
古今亭 志ん雀
2026/05/26
シリーズ「思い出の味」 第12回
真夏の甘美
~秋田のドリアンは、恋の味!
一龍斎 貞奈
2025/08/25
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
シリーズ「思い出の味」 第10回
松鶴、鶴光、羽光、羽太郎の四世代の飲食
~気をつかう師匠との食事
笑福亭 羽光
2025/08/04
シリーズ「思い出の味」 第11回
食べ物が詰まった、師匠桂三金の思い出と棺桶
~焼肉は落語
桂 笑金
2025/08/17
「コソメキネマ」 第十三回
弟子になる
~フランキー堺演じる落語家が活躍する喜劇映画『羽織の大将』をご紹介!
港家 小そめ
2026/05/23
「エッセイ的な何か」 第12回
5月11日は、ご当地スーパーの日 →土地の味を追い求める男の旅情
~ご当地スーパーを巡る旅は予期せぬことの連続である
三笑亭 夢丸
2026/05/24
「マクラになるかも知れない話」 第十回
G.W.にご用心
~日常の些細なモヤモヤを、落語みたいなリズムで笑い飛ばしてくれる爽快エッセイ!?
三遊亭 萬都
2026/05/25
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第23回
日常を鮮やかに描く言葉の力 神田茜(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/12/31
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第13回
芸人、変な人多い
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/05/03
「かけはしのしゅんのはなし」 第12回
5月5日は、自転車の日
~あの時、見えた新しい世界と、今知る父の気持ち
春風亭 かけ橋
2026/05/22
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「座布団の片隅から」 第13回
声優
~話題の人気アニメ『あかね噺』で声優デビューさせていただきました!
三遊亭 好二郎
2026/05/07
月刊「シン・道楽亭コラム」 第13回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト Part.3
~橋本さん亡き後に立ちはだかった超大型の壁
シン・道楽亭
2026/05/10
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第13回
芸人、変な人多い
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/05/03
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
シリーズ「思い出の味」 第6回
茶色いうどん
~自分の未来を見つめる8歳の少年
三遊亭 ごはんつぶ
2025/06/25
シリーズ「思い出の味」 第11回
食べ物が詰まった、師匠桂三金の思い出と棺桶
~焼肉は落語
桂 笑金
2025/08/17
「令和らくご改造計画」
第十話 「オチログ」
~前座が作った落語家レビューアプリ「オチログ」を巡る狂騒。ブラックユーモア満載の笑撃作!
三遊亭 ごはんつぶ
2026/05/15
「くだらな観音菩薩」 第13回
願成就院の毘沙門天
~運慶が作った仏像に心が震えた、きく麿師匠。その一方で…
林家 きく麿
2026/05/16
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
微笑みながら中指を
~笑えて震える、ご近所交流録! マトリックスばあさん、降臨!!
桂 三四郎
2026/02/25
シリーズ「思い出の味」 第19回
雪のココア
~内弟子時代に憧れた甘い味
柳家 わさび
2026/01/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第7回
世間せまないか?
~落語家を多数輩出する片田舎、神戸の垂水
桂 三四郎
2026/02/01
編集部のオススメ
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第12回
突撃リポート! 落語芸術協会・真打昇進襲名披露パーティー
~真打昇進披露パーティー体験リポート③
服部 拓也
2026/05/28
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第11回
談志師匠の最後の弟子! 立川談吉 改メ 立川談寛師匠真打昇進披露パーティー
~真打昇進披露パーティー体験リポート②
服部 拓也
2026/04/23
シリーズ「思い出の味」 第23回
カレーのような草枕
~自由でゆるくて、どこか芯がある。かつて新宿にあった名店の最後を描く、愛おしい物語
田辺 一記
2026/04/21
シリーズ「思い出の味」 第22回
亡き父の味と、鰻に導かれる名人の味
~人生と落語と鰻の不思議なご縁
三遊亭 あら馬
2026/04/20
「くだらな観音菩薩」 第12回
日光菩薩と月光菩薩
~怒りと笑いを行き来しながら、菩薩様のような優しさに辿り着くコラム
林家 きく麿
2026/04/16
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「令和らくご改造計画」
第九話 「地獄のモーニングコール」
~落語家は寝すぎ? 働かなすぎ? 前座が仕掛ける“狂気の作戦”とは!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/04/12
「講談最前線」 第16回
2026年4月の最前線 【前編】 (講談協会が一般社団法人として始動へ)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/04/11
月刊「シン・道楽亭コラム」 第12回
一粒の麦 ~世界に広がれ、落語の輪 in 名古屋!
~名古屋の演芸文化を支える多彩な人たちの静かな情熱とリアルな声を追ったコラム
シン・道楽亭
2026/04/10
「座布団の片隅から」 第12回
地獄
~春風亭㐂いち兄さん、柳家小はだ兄さん、三遊亭歌彦さんと僕でスキーに行ってきたのだが…
三遊亭 好二郎
2026/04/07