老害は老後から始まらない ~ヒエラルキー思考とフラット思考
「噺家渡世の余生な噺」 第10回
- 落語
柳家 小志ん
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三、敬意は強要するものではない
年長者は、敬うべき存在である。この国を支え、社会を築いてきた先人たちがいたから、今の日本がある。それは間違いない。
だが、年齢や在籍年数というものは、努力で勝ち取ったものではない。生まれた順番と、入った順番。言ってしまえば、偶然の産物である。
その偶然を盾に「俺の方が上だ」と言い出した瞬間、話はおかしくなる。
金を払っているからといって、「客は神様だろうが」と怒鳴る人と、根は同じである。本当に敬われる人は、敬えと言わなくても、自然と敬われている。
四、老害の正体
ジェネリック医薬品が推奨され始めた頃の噺である。
調剤薬局で、問診票に「ジェネリック医薬品を希望しますか」という欄があった。よく分からないまま〇を付けたであろう高齢者に、薬剤師が丁寧に説明を始めた。
するとその高齢者は言った。
「ごちゃごちゃ言わないで、医者の言った薬を出せばいいんだ」
私は心の中で呟いた。
――ああ、これが老害か。
だが、よく考えると違う。この人は元々、「医者が上、薬剤師が下、その間に客の自分がいる」というヒエラルキー思考の持ち主なのだ。つまり、老害なのではない。若い頃から、ずっとこの人なのである。
五、ヒエラルキー思考
ヒエラルキー思考とは、一つの組織内――いわゆるメゾ・レベルにおいて、立場が下である者や、自分より経験年数や所属期間が短い者は、その組織を外れた社会――マクロ・レベルにおいても、人間的価値や能力においても、自分より下であり、その意見や提案についても軽薄なものだと、最初から決めつけてしまう思考である。
本来、序列とは、教育や責任を分担するためのものであって、人の価値や可能性の上下を決めるものではない。こういった人物が、組織にたった一人いるだけで、現場には意見の抑制が生まれ、空気は濁り、改善は、静かに、確実に、低下していく。
だから彼らはおそらく、老いてそうなったのではない。現役世代の頃から、会社内で自分の立場が優位だと認識した途端、相手の行動も、能力も、提案も、無条件に価値が低いものだと見なしてきた人たちなのだろう。
そして、相手と違う選択肢を示すことこそが正しいのだと信じ、そのつど、違う方へ、違う方へと、指図してきた。
それは職場を離れても変わらない。プライベートの飲みニケーションの場においても、注文する酒から、皿の置き方に至るまで、いちいち否定してくる。
これが日常なら、まだよい。だが、緊急時や災害時にまで、経験者や専門家に対してさえ、同じ物差しを当てはめられては、たまったものではない。実に、面倒な人間である。
そこに年齢という、“都合のいい肩書き”が加わっただけの話なのであろう。
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