〈書評〉 現代語訳 風姿花伝・三道 (世阿弥 著・岡田利規 訳)
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第11回
- 落語
- その他
- Books
杉江 松恋
2026/03/29
芸人を照らす鏡としての「風姿花伝」
冒頭の「花伝その一 生涯にわたる稽古、そのライフステージに即したやり方」で早くも〈花〉に関する言及がある。
能という「パフォーミング・アーツ」はだいたい7歳ぐらいから稽古を開始するのだそうだ。12、3歳ぐらいになると演者はいい感じになっていくが、それは真の〈花〉ではなく〈時分の花〉に過ぎない。若さが一時的に底上げをしてくれるという意味だろう。17、8歳になると声変わりをするから第一の〈花〉は失せる、と書かれているので、そういうことだとわかる。
「一生モノとなるテクニックが確立」し始めるのは24、5歳からだが、観客が「ワオすごいのが現れた」と注目してくれるようになっても、そこに慢心してはいけない、と戒められる。「この段階の〈花〉こそまさに初心と呼ぶべきものにすぎないというのに、すでに能を窮めたかのような勘違いをし、申楽(さるがく)の本分から外れた勝手な言動を時期尚早にもするようになり、まるで大成者であるかのごとく振る舞う」者がいることを世阿弥は嘆いている。あれ、こういう演者、現代にもいるような。
世阿弥のすごいところは、歳はただ重ねるだけじゃ駄目だ、と言い切っていることである。
34、5歳は能の演者にとって芸の絶頂期だが、同時に「もしこの段階で、そこまで認められているとは言えない、想ったほどリスペクトもされてない、ということであれば、それは真の〈花〉を会得できていないパフォーマーということなのだと思い知るべし」と手厳しい。そういうパフォーマーの芸は40歳から落ちていく、と宣告されるのである。このへんの見切り方も、やはり現代に通じるものがあるような気がする。平均寿命が延びた時代であるから、それぞれ10歳ぐらいずつ下駄を履かせて考えてみるとしっくりくる。
こんな具合だ。私は読みながら芸人のありようがさまざまに浮かんできて興味深かった。ぜひ現役芸人のみなさんにも読んでもらいたいと思う。
上のほうで、これは世阿弥が一子相伝の教えのために書いた本だと述べた。でも「風姿花伝」のおしまいで、こんなことが書かれている。
――なお、この別冊の内容は、以前弟の四郎にすでに相伝しているのだが、わたしの長男の元次もなかなかいいセンスをもっているので、一代について一人にのみの相伝が原則なのだけれども、特例として息子にも相伝した次第である。秘伝を秘伝として、大事に守っていくように。
息子は特例かよ、と思わずつっこんでしまった。こういうところも現代の芸界で見ることがあるような。
(以上、敬称略)
(毎月29日頃、配信予定)
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