〈書評〉 浪花節の世界 (安斎竹夫 著)
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第14回
- 浪曲
- Books
杉江 松恋
2026/07/01
証言から見えてくる、昭和浪曲界の豪快な裏側
松平八千代も元は浪曲だったが既に引退済で、現在も存命の松平洋子の母として紹介されている。
八千代の父は春日金鶴(かすがきんかく)という曲師で、二代目浪花家辰丸などを弾いていたという。その父親に勧められて13歳の時に春日錦を名乗り、一座を組んで千葉県で興行を打ったが、赤字に終わった。この人の話がなかなか乱暴で面白い。
八千代 [……]もっとも、わたしの本当の最初の名は諏川錦だったんです。それを春日亭文柳という人で、荒川の尾久に寄席を持っていた人が、春日に変えたものなのです。幟(のぼり)も作って呉れましてね。[……]
八千代の後は鼈甲斎女虎になる。初代鼈甲斎虎丸の息子が父のマネジャーをしており、名前を貰ってやるから門下に来い、と言われたためだそうだ。その後は宮川女左近を名乗る。
宮川左近は堂々たる大看板だが、この時は三代目だろう。名前はその三代目から貰ったわけではなくて、勝手に名乗った。八千代の夫の実父がひどい男で、孫が欲しいが嫁は要らないという態度だったため、夫婦で家を飛び出したのだ。鼈甲斎女虎では居所がわかってしまうので、仕方なく初代宮川女左近を名乗ったのである。当然だがトラブルになった。
八千代 [……]二十二ぐらいの時、福井県三国でした。小屋が二つありましてね。向こうは左近、こっちは女左近。ところが向こうは入らない。町の人は女左近は左近の女房だとうわさしていたんですね。左近さんの奥さんが怒って、こっちに見にきたそうですよ。許しもしない名前をつけて、どんな奴か、それに価する者かどうか見てこい、ってことですね。
その後どうなったかは気になるところだと思うが、本を見つけたら読んで確かめてもらいたい。松平八千代を名乗ったのは金絡みだそうだ。
八千代 [……]当時、わたしたちは生活に追われたこともあって、河井松次郎という人の事務所に入って月給を貰っていたんです。初代松平八千代って人は、その河井さんに三百円の借金があった。その借金はあとで返すということだったんですが、その八千代さんが二十七で亡くなってしまったのよ。亭主はあとの読み手を探すわ、十三の子はいるわで出るに出られない。それで河井に八千代の名を借金代わりに売った訳です。それをわたしが継いだ。先代は九条武子のような品のいい人で浪花節もうまかった。
こういう昭和ならではの荒っぽい話がたくさん出てくる。松平八千代以外のインタビューについては、機会があれば実物でお確かめいただきたい。
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