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〈書評〉 浪花節の世界 (安斎竹夫 著)

「芸人本書く派列伝 クラシック」 第14回

〈書評〉 浪花節の世界 (安斎竹夫 著)
杉江 松恋

執筆者

杉江 松恋

執筆者プロフィール

この本でしか読めない貴重な聞き書き

 何かのきっかけで資料が集まり始めることがある。

 本は淋しがり屋だから、仲間を呼ぶのである、などと言う人もいる。実際には、それまで書店や古書店に行っても目が止まらず素通りしていた棚に、関心領域の本があることに気づくようになるからだと思う。

 私の場合、正岡容(まさおかいるる)『日本浪曲史』(岩波書店)くらいしか通史的な書籍がなくて困っていた時、ふと目に入ったのが安斎竹夫(あんざいたけお)『浪花節の世界』(日本情報センター/1974年刊)だった。〈ベア・ブックス〉という新書形で刊行されている。

 今でも覚えているが、前橋の山猫館書房で買ったのである。たしか1500円だった。この本の適正古書価はだいたいそのくらいだ。読んで、あ、浪曲本は面白いぞ、と集め始めた。

 構成は序章「いわゆる浪花節」、第2章「浪花節の世界」、第3章「むかし・その歴史」と概論が述べられた後に第4章「いま・芸人聞き書」、第5章「これから・浪花節の問題点」と続いていく。言うまでもなく最も重要なのは第4章で、ここでしか読めない芸人の聞き書きが収められている。話を聞いているのが浪曲師だけではないのが本書の特徴だ。挙げられている名前を列挙しておく。

 玉川次郎、山田芳夫、初代東家浦太郎(あずまやうらたろう)、二葉百合子(ふたばゆりこ)、二代目春野百合子、松平八千代(まつだいらやちよ)、迫出雄、東家楽浦(あずまやらくうら)、三門博(みかどひろし)、浪花家辰造(なにわやたつぞう)、木村八重子、東家みさ子。

 浪曲ファンの方ならわかってもらえるが、この並びはすごい。

 八重子、みさ子は名手と謳われた曲師、浦太郎、両百合子、博、辰造は堂々たる大看板である。玉川次郎は二代目玉川勝太郎門下で、次郎は師匠の前名である。山田芳夫は初代雲月、初代篠田實(しのだみのる)、桃中軒如雲(とうちゅうけんじょうん/志摩一晃)と共に、大正から昭和にかけての少年浪曲師四横綱と呼ばれていたこともある人物だが、このインタビュー時には既に引退していた。天中軒女雲月(てんちゅうけんおんなうんげつ)との間に生まれたのが天津羽衣(あまつはごろも)だから、当時はそちらの顔の方が有名だっただろう。