〈書評〉 浪花節の世界 (安斎竹夫 著)
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第14回
- 浪曲
- Books
杉江 松恋
2026/07/01
一人の疑問から生まれた『浪曲事典』
本書に収録されている原稿の多くは、インタビューも含め「月刊浪曲ファン」に掲載されていたものである。
同誌は浪曲木馬会、後の浪曲木馬亭が始まった後に創刊されたもので、安斎が編集長を務めた。席亭であった二代目根岸浜吉(ねぎしはまきち)と相談して発刊したもので、最初はプログラムの扱いだったので1973(昭和48)年までは無料配布していたという。
安斎竹夫はごく大雑把に言うと、浪曲研究家の芝清之(しばきよし)がその名前で活動を始める前の最重要人物で、1931(昭和6)年、東京府(現・東京都)生まれで、明治大学政治経済学部を卒業後、報知新聞社に入った。もともと浪曲が好きだったわけではなくて、20代の時に同紙で演芸担当記者をするようになって、この芸能に触れるようになったのである。
当時の浪曲は地方興行が多く、東京で聴く機会といえば浅草国際劇場の年2回ある大会ぐらいだった。そこに出演するのは大中小の看板ばかりだけだが、それが浪曲師のすべてだと安斎は思っていた。1970(昭和45)年に浅草木馬館が1階で定席を始めた際、日本浪曲協会に会員名簿を貰い、まだ全国に200人ほどの芸人がいるということを初めて知った。
それより前に三代目三河家円車(みかわやえんしゃ)が亡くなった際、おそらく死亡記事を書くためだろうが、協会に問い合わせたところ、年齢も出身地も、十八番が何なのかもわからなかった。それでは困るということで、まず浪曲師・曲師の名鑑を作ろうと思い立ったのである。その結果出来上がったのが、『浪曲事典』(日本情報センター/1975年刊)の中核を占める「現代浪曲家名鑑」だった。
『浪曲事典』は『浪花節の世界』と併せ読まれることを前提とした本で、名鑑の他に通史や、各浪曲師の系図、浪曲名作抄などが掲載されている。好事家に最も珍重されるのは、巻末の各社レコード・テープ一覧だろう。キャニオンレコード、ポニー、日本ディスクライブラリー、コロムビアレコード、クラウンレコード、東芝レコード、CBSソニー、ミノルフォンレコード、ローオンレコード、テイチクレコード、ビクターレコード、ポリドールレコードの浪曲一覧が掲載されている。
このうちポニーはすべてレコードではなくて、カートリッジだ。カートリッジ16型として紹介されているのは、いわゆる8トラックのことだろう。カラオケやカーステレオなどに用いられていたもので、がっしゃんと嵌めこむ感覚は昭和生まれの人なら知っているかもしれない。
これに玉川桃太郎「男はつらいよ(寅さん故郷へ帰る/恋する寅さん)」が入っている。ここでしか聴けない音源である。三味線は当然、桃太郎の愛妻・玉川祐子、今年の10月で104歳の最高齢現役である。誕生日記念にどこかで円盤化してくれないものか。
(以上、敬称略)
▼杉江松恋 X

- 書名 : 浪花節の世界
- 副題 : むかし・いま・これから
- 著者 : 安斎竹夫
- 出版社 : 日本情報センター
- 書店発売日 :1974年
- ISBN : ―
- 判型・ページ数 : 新書・265ページ
- 定価 : ―
(毎月29日頃、配信予定)
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