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〈書評〉 新宿末広亭 令和の定点観測 (長井好弘 著)

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第13回

沈黙の客席

 当たり前のことだが、寄席の雰囲気は毎日変わる。

 同じ噺でもすごくウケる日もあれば、全くウケない日もある。そんなウケてない日の客席も、定点観測されている。笑わない客と笑わせたい芸人、押したり引いたり客と芸人が丁々発止……。どんな日も定点観測の一日として赤裸々に綴られる。

 何年か前、上野広小路亭の寄席で、お爺さんのお客さんが四人という日があった。私は全身全霊を込めた『さくらんぼ(あたま山)』を熱演。四人のお爺さんは、終始微動だにせず席に着いていた。聞いてくれているのかすら怪しい。目の前で自分たちを笑わせようと必死で落語をする芸人を見て、こんなに無(む)であり続けることができるのか?

 もしかして、四人のお爺さんは絶命してるのではないだろうか?

 高座を下りると、次の出番で袖に控えていた一門の兄弟子、羽光師匠から一言「君のこと、いじってもええか?」。

 私のことをマクラでいじるとのこと。もちろん何を言っていただいても結構だが、私の落語で生死の判断がつかないほどピクリとも動かなかったお爺さんたちを、私をいじって笑わせるなんて無謀ではないだろうか?

 いや、羽光師匠は数々の賞を総ナメにしている実力派の真打。きっとウケる算段はついているに違いない。

 「笑福亭羽光です。先ほどは私の弟弟子の茶光でした」

 どういじって笑いに繋げるのか?

 「今の茶光の落語、面白くなかったという人は手を上げてください」

 ……はぁ? ちょっと思ってた『いじる』と違うんですけど。

 「え~……一人ですね」

 手上げるんかい。そして、生きてたんかい。

 「では、私の方でも一席」

 それだけ!? そのアンケートいる!?

 寄席は毎日開いている。しかし、一日たりとも同じ日はない。皆さんも令和の「定点観測」で寄席の気分に浸ってみるのはいかがでしょうか?

 ちなみに私も定点観測してもらってます。どんな一日だったのか? ぜひ本書でお楽しみください。

(文中、敬称略)

笑福亭茶光 X

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  • 書名 : 新宿末広亭 令和の定点観測
  • 副題 : 全七十三興行通い詰め
  • 著者 : 長井好弘
  • 出版社 : 朝日新聞出版
  • 書店発売日 : 2026年6月
  • ISBN :9784022521439
  • 判型・ページ数 : 四六判・424ページ
  • 定価 : 3,300円(本体3,000円+税)

(毎月1日頃、配信予定)

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