かたばみ日記 ~初主任の十日間
「二藍の文箱」 第10回
- 落語
三遊亭 司
2026/03/02
このシバイは、わたしの28年間でもある(版画:ひびのさなこ)
二月中席千穐楽、翌日。
初主任の感慨や達成感にひたっているかというと、そんな場合ではない。10日間の昼席を打ち上げたその翌日は、7時起きで独演会がふたつ、計4席。
懇親会を終えて、帰宅して、ひと息ついて、もう酒はいいか、と、床につく。すぐに眠り入ったが、身体が重い。痛い。何度か意識的に寝返りを打たないと、身体が動かない。
自分へもそうだが、弟子にはなるたけ、精神論ではものを言わないようにしているが、やはり「気」というものはあって、わたしから二月中席鈴本演芸場の昼の部のトリの「気」が抜けていく。
気の抜けたその先に、一体なにが残るのやら。
雨と拍手と崇徳院――初日の舞台裏
2月10日 火曜日 中席初日前夜
初日前日。打ち合わせから帰宅、弟子が着物を取りに来る。
体調不良や不慮の事故にあうことなく日が暮れる。二月中席のトリのはなしをいただいたとき、高座云々でなく、それがまず心配だった。ひとの運不運というのはそういうところに出る。
思いの外あたたかくもなく、小鍋立て。23時には寝てしまう。健全。それも5分ぐらいで眠ったようだ。20代のころの繊細さが、いまとなっては懐かしい友のようだ。
2月11日 水曜日 初日 「崇徳院」
寝過ぎたか。と、思ったが、そうではなく窓の外が雨のせい。予報通り。二ツ目のころから、大事な場面ではたいてい雨。雨に縁がある。ということは、天に祝福されているようだ。
師匠歌司へはメールで、先師四代目桂三木助へは墓参にてご挨拶。日暮里まで山手線で行こうとしたが、知らずに京浜東北線に乗っていたようで、田端まで止まらず。田端からはじまった藝道の、振り出しに戻る。
開演前、出演者の皆さんへの折詰を、鈴本の前へ届けると、取りに来た前座が「いっぱいのお客さんです」と。その声の熱さが嬉しい。中入り前に楽屋入り、立見のお客さま。ありがたい。楽屋には出番のない柳家三語楼や春風亭三朝といった、前座仲間や、入舟辰乃助、立花家あまねなど後輩たちが。
きょうの噺は九分ほど決めていた。なのでわたしの前にあがった代演の歌奴兄が、同じような雰囲気──所謂、つく。噺をしたが、前座には承知であがるから、と。
東日本大震災の翌日も、ネタ出しでこの噺を出していた。なので、あの日、新宿末廣亭からこの噺をさらいながら歩いて帰った。そして、数年前の悪疫禍。あの日々にあって、再会を主題としたこの噺は、わたしにとっては希望そのものであった。
止まない拍手と掛け声に、めずらしく緊張した。
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