運と皆様のおかげです
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
- 落語
桂 三四郎
2026/01/01
あれ?
神々しい空気をいっぱいに吸い、これはいい元日になった。
きっといい年になるだろう。
そう思い、帰りの近鉄特急、伊勢参りの帰りなのか、列車は満席だ。
通路側の席に座って隣の席の人に目をやると
「ああ、暴力団に財布取られた……」
なんと先ほどバスで隣になった
「暴力団に財布取られた」おばあちゃんじゃないか!!
暴力団に財布を取られたのに、なぜ近鉄特急に乗っているんだ?
チケットだけ別のところに入れていたのか?
「暴力団に財布取られたんですよね!?」
「え? もしかしてあなた……暴力団?」
まさか暴力団と間違われるとは思わなかった。
あんなに親切にしたのに……。
どちらかと言えば、協力団なのに。。
「いや、違いますよ」
「あの、この電車は鶴橋まで行きますか? 乗り過ごしたら大変なことになるので」
「僕も鶴橋で降りるんで一緒に降りましょう。そこから一人で帰れますか?」
「ああ、鶴橋までお迎えが来ますんで」
もしかして鶴橋で天国からお迎えが来るのか?
現世に別れを告げるために伊勢神宮へ向かったのかもしれない。
じゃあ、僕がこのおばあちゃんの遺言を受け取らなければいけないのか?
「とにかく鶴橋に着いたら一緒に降りましょう」
と言って寝ることにした。
いい元日だった
しかし、このおばあちゃん、よっぽど不安に思ったのだろう。
電車が駅に止まるたびに
「ここは鶴橋!? ここは鶴橋!?」
と大騒ぎするのだ。
「鶴橋になったら教えてあげるから、ちょっと寝かせてね」
「ああ、暴力団に財布取られた……」
そしてまた電車が止まるたびに
「ここ鶴橋!? ここは鶴橋!?」
と大騒ぎするのだ……。
正直、名張あたりで天国に送ってやろうかと思ったけど
協力団である限りそれはできない。

鶴橋でおばあちゃんと一緒にホームに降りると
おばあちゃんのお迎えであろうお爺さんが立っていた。
「ああ、暴力団に財布取られた……」
するとお爺さんがすごい剣幕でこう叫んだ
「お前、また取られたんかいな!!」
また!? 前にも取られたことあるの?
「ああ、暴力団に財布取られた」
「ほんまなんべんとられんねん。寒いから早よ帰るで!!」
と言って帰っていった。
本当になんべんも暴力団に財布を取られたおばあちゃんなのか
お爺さんがあえてそれを流したり否定することなく
まっすぐ受け止めるという愛情なのか
何かほっこりした気持ちで元日を過ごせた。
縁起が良く、心洗われ、エピソードもできる。
僕にとって、この上ない元日の過ごし方だった。
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