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亡き父の味と、鰻に導かれる名人の味

シリーズ「思い出の味」 第22回

 2021年、二ツ目昇進時に肝臓移植をして、免疫抑制剤を毎日12時間おきに飲んでいる。他人より免疫力がないが、翌年2022年のコロナ禍の8月上席。術後10ヵ月後の芝居。4人交互枠の二ツ目がほぼコロナにかかる中、私一人だけ元気に二ツ目枠の代演をいただいた。

 完全に鰻パワーのおかげ。

 私は精神力も人一倍強いみたいだけれど、退院後、ここぞとばかりに鰻を食べた。入院中も病院食では出るはずのない鰻だったが、ただただ娘に元気になって欲しいと母が医者の了承も得ず、鰻丼弁当を差し入れてくれたことがあった。

 うちの母は、自由人の画家。70歳の太め。「私の肝臓をこの子にあげてください」と懇願し、年齢制限が65歳までというところは指摘せず、医師は「お母さんは脂肪肝ですからダメです」と言われて怒ってた娘思いの母。術後初めての面会、滅菌室でグッタリした私の手を手袋もせずに撫で回す愛溢れる母。愛が重く、マイペースで迷惑を顧みない母の唯一のグッジョブ案件が、鰻丼の差し入れ。

 退院後も新宿高島屋の鰻屋へ行くなどしていた。肝臓自体が油物、辛い物がいけないと言うので、鰻は偶然にもベストであったようだ。

 落語家だからといって、毎日打ち上げがあるわけでもないし、打ち上げのたびに鰻屋でやるわけでもないのだが、鰻の打ち上げのある日に出番が巡ってくるし、鰻を食べる会の日はなぜか偶然空いている。鰻を愛し、鰻に愛されている芸人、それが三遊亭あら馬。

 別に鰻が好きだからで選んだわけではないが、うちの師匠、とん馬は愛知県の半田の生まれ。大須演芸場など名古屋での仕事が多いのが嬉しい。米を食べると眠くなると言う特殊な師匠なので、ひつまぶし屋へご一緒したことはないが、やっぱり鰻運が強いと言えよう。