新しい響きを持つ講談への挑戦 神田おりびあ(前編)
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第38回
- 講談
瀧口 雅仁
2026/05/30
楽器を捨て、語りを選んだ日
―― そんなエピソードがあったとは知りませんでした。でも、そうやって、陳腐な表現かもしれませんが、自分探しの旅をしていたんですね。
おりびあ 帰属意識もありました。私はどこに属しているんだろうか。今もまだ見つけられていませんが……。

―― 邦楽もやっていたんですよね。
おりびあ 江戸で栄えた芸であることや、江戸という時代が常に意識にありました。一中節(いっちゅうぶし)をはじめに、新内(しんない)をやっていました。浄瑠璃をやりたかったんですが、お金がかかって続けられませんでした。そこで岡本文弥(おかもとぶんや)師匠のお弟子さんのもとに入りました。
―― 新内はボサノバや民族芸能とはかなり違って、まさに江戸の粋の芸ですね。
おりびあ それまで演奏しかやってこなかったけれど、歌を歌うという表現への憧れがあって、自分でもやってみたくなって、詩吟に能の謡(うたい)を短期間にやりました。かじってばかりですが。
―― おりびあさんの講釈師としての発声の良さやテンポで聞かせる高座は、そのあたりに原点があったんですね。
おりびあ 薩摩琵琶もやって、弾き語りもやりました。演奏ばかりでは表現の本質はとらえられない、これは私の考えですが、演奏と歌の両方をやってこそという思いがあったんです。
言ってしまうと、その両方、どっちもうまいという人は少ないんです。両立することの難しさを感じて、私は楽器を捨てて、語りのほうを選びました。もともと語りのほうが大切だと思っていたのも、その選択肢に表れました。
後出もする岡本文弥は、元は浄瑠璃の太夫の名前であり、ここに登場するのは、大正から平成にかけて長く活躍した、新内節の太夫(本名・井上猛一、明治28年~平成8年)で、古曲の継承とともに、『西部戦線異状なし』といった反戦作品や、『ふるあめりか』(『ふるあめりかに袖はぬらさじ』)といった作品で評判を呼んだ芸人である。
その新内節とは浄瑠璃の豊後節から派生した芸で、主に遊里で「流し」で発展していった哀調ある節が特徴で、女性の人生を歌い上げる江戸を代表する音楽である。代表曲に『明烏夢淡雪』や『蘭蝶』などがある。
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