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鍋で炊きゃ そこらの米も ゴチになる

「朝橘目線」 第16回

 『師匠の言うことは絶対』という縦社会の厳しさも解さない田舎者の一言は、師匠の想定をはるかに超えた。母親が、さっきのおかみさんくらいの速度で「すみません、差し替えますね」と別のおじさんを出してくれたらよかった。

 狼狽する師匠は「え、えーと……ちょっと考えておきます」。 

 黒門町の師匠、八代目桂文楽師匠は晩年、噺を途中で忘れてしまい、「勉強し直してまいります」と言って引っ込んだが、その台詞をも実は稽古していたという。そんな文楽師匠も、新弟子の親にこんなこと言われて、淀みなく返答できただろうか。

 あの時点でクビというか、内定取り消しでもおかしくなかった。うちの師匠の温情に救われた。1週間後、師匠が改めてつけてくれた名前が、上述の三遊亭橘也。師匠の橘の字と、私の本名・渡辺勝也から也の字をとっての命名。

 もし「きつね」に決まっていたら、可愛い耳付けてこたつで星野源の顔見ながら、どん兵衛すすってたかもしれん。日本ハムファイターズの試合で、キツネダンスも踊ったかなあ。うん、橘也で良かった。名前は大事だ。

 最近、飲食店の名前で「〇〇と□□」みたいなの、割と多い気がする。

 ラーメン屋なら「小麦と〇〇」、ご飯に合う料理を提供する店は「米と□□」といった、主要な原材料を並列するスタイル。「当店はこの素材にこだわっております!」というアピールなんだろう。特に米とホニャララな飲食店が目に付く。それでふと思ったのだが、ご飯のことを「米(こめ)」って呼ぶ人、最近多くない?

 落語の方ではもっぱら「おまんま」と言う。世間じゃまず言わないだろう。一番多いのは「ご飯」かな。何のデータも参照していないが。あとは「白米」と言ったり「ライス」だったり。「めし」ってのもあるか。「米の飯」なんてのは、昔話とか古い話で見かける。お米が貴重だった時代の言い方だろう。

 してみると、「飯」というのは炊いたお米(雑穀含む)であり、食事のことを指す。「米」単体では素材、材料だ。こだわり食材を店名にする理論とも齟齬はない。

 ところがテレビでもネットでも、最近は「あー米に合う」「これは米だわ」「米が進むね」ご飯という意味で米と言う。これがどうも、しっくりこない。

 本のことを「紙」とは言わないだろう。楽屋で着道楽の人を見て「良い着物だね!」「正絹です」、せこい人に「何だその着物は」「化繊ですぅ」はあるけど。